長期で見れば、クリエイターエコノミーにはまだまだ伸びるポテンシャルがあります。IPOというイベントで大型の資金調達を行い、投資をますます加速して成長スピードを高めていく──これが本来、一番望ましいシナリオです。

とはいえ、外部環境はコントロールできませんから、悪条件の下でも評価される企業になっていきたいと考えています。現状はコストの見直しやROI(Return On Investment、投資収益率)の精査を進め、生産性の向上や投資の最適化を図りつつ、IPOの好機を待つ。ある程度の資金調達につながるIPOでなければ、当社にとっては実施する意味が弱いととらえています。

自由な発想で大きな絵を描きつつ、「悲観のシナリオ」も忘れずに

及川:今後、新たにM&Aに取り組みたいと考えているスタートアップに向けて、アドバイスをお願いします。

渡邉:買い手にとって、僕が特に大事だと考えているのは、「悲観のシナリオ」を持っておくことです。相性のよさそうな候補会社と出会えると、互いに気持ちが盛り上がるものです。一方では、できるだけ自由な発想でシナジーの可能性を探り大きな絵を描きつつ、頭のもう半分では、要所要所で悪い方に転んだ場合の展開も想定しておく。高値づかみを避けるためには、冷静なシミュレーションが不可欠です。

売り手が何を求めてM&Aしようとしているのかを見極めることも大切です。M&Aを希望する売り手は大きく分けると、会社が成長の限界を迎えているケースと経営者が利確してイグジットしたいケース、この2つだと思います。

後者の場合、買い手は売り手企業の経営者がそれまでに得た経験値抜きで、企業や事業のガワだけ引き継ぐことになるわけです。社内にノウハウが蓄積されている事業領域であればそれでも回していけるかもしれませんが、今後どこまでの成長が見込めるのか。 創業者がいなくても回るビジネスであれば、そもそも参入障壁が低いということではないか。こうした点は、十分検討した方がよいと思います。

ちなみに、当社のM&Aでは基本、経営者に残ってもらっています。それによって、属人的な経験値が生かされるのはもちろん、事業成長に強くコミットする人の存在や熱量自体が、リスクの軽減にもつながると考えています。

 

及川:やはり、冷静な目をお持ちですね。M&Aの売り手の方は、どんな点を意識すべきだと思いますか。

渡邉:もし、会社がさらに成長できる環境をつくることがM&Aの主目的なのであれば、契約時の個人的なリターンの大きさにはあまりこだわらず、純粋に会社の成長可能性を考えて相手を選んだ方がよいと思います。