その電脳交通が10月8日、事業をさらに加速させるべく複数の投資家を引受先とした総額5億円の資金調達を実施した。同社では2020年1月までに複数回に渡って累計で4億円を調達済み。各投資家とは事業面での連携も進めながら、タクシー業界のデジタルシフトを推進していく計画だ。

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地方タクシー会社の“ガレージ”で生まれた現場のためのプロダクト

もともとメジャーリーガーになりたかったという近藤氏は18歳の時に単身で渡米し、アメリカで4年間野球に打ち込んだ後、日本に帰国した。転機となったのが2009年に家業である吉野川タクシーに入社したことだ。上述した通り2012年には代表に就任し、債務超過寸前の状態から会社を立て直した。

事業を再建するためには、働き盛りで活気のある若いドライバーを仲間にする必要がある。そこで当時は業界内で珍しかったSNSをフル活用し、働き方に関する投稿などを地道に積み重ねていったところ、次第にメディアなどでも取り上げられ有望な人材を採用できるようになった。

並行して多言語通訳システムの導入や妊産婦向け送迎サービスの提供など新しい取り組みにも積極的に挑戦。これらの施策が少しずつ形になり、売上の成長に貢献することになる。

電脳交通の代表取締役CEOを務める近藤洋祐氏。写真は同社を創業前、吉野川タクシーで働いていた時のもの
電脳交通の代表取締役CEOを務める近藤洋祐氏。写真は同社を創業前、吉野川タクシーで働いていた時のもの

ただ周囲を見渡してもタクシー業界は非常にアナログで、属人的なオペレーションが大半な状況は変わらないままだ。世界ではUberを筆頭にライドシェア市場が急速に盛り上がり、日本でも配車アプリが生まれてコンシューマー側の体験には大きな変化が起こり始めていたものの、事業者側の課題は残されたままだった。

近藤氏自身が課題に感じていたことの1つがタクシーの配車にまつわるものだ。タクシー業界はドライバーの高齢化とそれに伴う人材不足が顕著で、廃業も増えていた。人材不足の問題はドライバーだけに限らず、配車業務を行うスタッフにおいても同様だ。

特に地方のタクシー会社は高齢の利用者が多く、売上の7〜8割ほどが「電話による配車」で支えられているのだそう。タクシーが日常生活における重要な交通インフラとしての役割を担っており、利用者からのニーズは大きい。その一方で供給側が追いつかず、十分なサービスを提供できない状況が生まれていた。

「当時はライドシェアを筆頭にコンシューマー側の体験の変革が必要という議論が中心で、配車アプリで起業する人も増えていました。でも日本においてはタクシー事業者側の課題解決にテクノロジーを活用し、経営の合理化をサポートしていくことが、地方の交通インフラを維持していく上でも必要なのではないか。自分たちは事業者の困りごとを解決することに注力しようと決め、電脳交通を立ち上げました」(近藤氏)