組織の縮小、事業の大転換、人事制度の改定、そして新たなスタート。目まぐるしい変化の中にあった2020年を松村氏が振り返る。
業界への打撃と挫折、反省、プロダクト転換の決断と組織縮小
2015年設立の空は、ホテル業界を対象に、需給に合わせた宿泊料金をリアルタイムで提案するダイナミックプライシングサービスを提供してきたSaaSスタートアップだ。
松村氏は、昨年までのホテル・観光業界の状況について「ひと言で言えば上り調子。訪日客の増加によりホテルの稼働率も高く、新規参入も多かった。2020年の東京オリンピック開催へ向けて、盛り上がりがピークを迎えようとしていました」と語る。
しかし、今年に入って状況は一変する。2020年1月以降、新型コロナウイルス感染症が急速に広がっていき、4月には緊急事態宣言が発令。日常生活も制約を受ける中、旅行や観光といった非日常の優先順位は下がってしまった。
「日常を新しい形で乗り越えなければならないという状況にあって、ホテルをはじめとした旅行業界は過去最大レベルの打撃を受けました」(松村氏)
ホテル側も手をこまねいていたわけではない。増加するテレワーク需要に呼応して部屋を仕事のスペースとして提供したり、無症状や軽症の新型コロナ患者を受け入れたり、昼間の需要喚起に努めるホテルも多かった。
「でも、それでは元の需要には戻りません。稼働率も単価も低下して、一時休館するホテルや廃業するホテルも現れました。GoToトラベルキャンペーンで一時的な盛り上がりもありましたが、それも国内旅行者のみでインバウンド需要はいまだにゼロのままです。12月にはキャンペーンの一時停止も発表されましたし、業界全体が振り回された1年でした」(松村氏)
空の事業ももちろん、大きな影響を受けた。松村氏はサービス提供開始当初から「世界中の料金のミスマッチをゼロにすることを目指す」と述べていて、その視野にはホテル業界以外のプライシング最適化も入っていた。だが、2019年までは基本的にホテル業界を対象としてプロダクトを強化しており、顧客のほとんどはビジネスホテルやホテルチェーンが占めている。
「クライアントは営業できず、一定期間休館するところもある状況。MagicPriceはホテルの売上には連動せず、月額固定のサービスですが、間接的な影響はありました。顧客は低レートでの客室販売を強いられていますし、コスト削減にもシビアに取り組まなければならない。新規顧客が『使おう』とはならないですし、既存顧客からも解約の申し出がありました」(松村氏)