空では、結果としてホテル市場を対象とした新たな投資は凍結し、従来の顧客へのサポートに集中。一方で新しい業界に向けたサービス開発へ注力することを4月に決断した。

コロナ禍での決断について語る松村氏
コロナ禍での決断について語る松村氏

前述したように、空の事業ミッションはサービス開始当初から「世界中の価格を最適化し、売り手も買い手もうれしい世界を作る」というところにあった。

松村氏は「ホテルからサービスの提供を開始してはいますが、あらゆる業界で横断的に使われるようなプライシングのサービスを提供して、売り手と買い手のより良い関係性をつくっていきたい。それは創業期から掲げ続けてきたことで、空の野望でもありました」という。

そのため、2019年からは新規事業チームを設置し、他業界へのアプローチを開始している。またアクセラレータープログラムやオープンイノベーションプログラムにも参加し、経験のない業界でのダイナミックプライシングサービス提供のポテンシャルを探り、各業界で最初の顧客となり得るパートナー探しにも取り組んでいた。

2020年2月にはGoogleが支援するアクセラレータープログラム「Google for Startups Accelerator」に、有望なAIスタートアップ9社の中の1社として採択されている。

ただし、新規事業は社内で「新しい取り組みをしている少数チーム」という位置付けにあった。それを今年4月に主力事業に定義し直し、ほとんどのメンバーを新規事業チームに振り分けた。

多くのメンバーが急遽、より広い業界を対象としたプロダクトを担当することになった空。顧客対象を広げるにあたっては、社内で真剣な議論があったという。

「社員にとって空は“チャレンジをする会社だ”という認識はありましたが、他業界への展開が思ったより早くなったという戸惑いはありました。それでもやはりチャレンジしようということで、時間は少しかかったものの気持ちを切り替えて新規事業に取り組むことになりました」(松村氏)

一方で「これは自分たちにとって成功体験ではなく、挫折でもあるし、反省もあり、ショックではありました」と松村氏は声を落とす。

「ホテル業界を軸足にスタートしたサービスを、ずっとホテル業界で使い続けられるサービスにできなかった。それを市場の変化のせいにしていても仕方のないことで、もっと何かできることがあったのではないか、という重い反省会もしましたし、このままは成長できないという判断に至るまでに大きな葛藤がありました。(顧客のニーズに)応えられない状況に一度はなってしまったことはつらかったです。学びは多かったけれども、しばらくは(この思いを)組織として引きずりました」(松村氏)