しかし近年、特に金融業界で盛んに取り上げられるようになったESGは、これまでのものと背景に大きな違いがあります。そのルーツは、2006年に当時のコフィ・アナン国連事務総長が主要国の金融機関や法務関係者との議論を経て提唱したPRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)です。

このイニシアチブは金融業界への提言であり、投資ポートフォリオのパフォーマンスへの影響に言及しています。誤解を恐れずに言うと、「ESGを考慮した投資はパフォーマンスが高いので、私たちはESGを考慮した投資を行います」という金融機関による宣言なのです。

この宣言は非常に画期的でした。巨額の資金を運用する機関投資家というのはつまり年金基金や保険会社であり、一般人の資金を預かって運用しています。そのため、世界中の機関投資家は法的に受託者責任──つまり資金を預けている人の利益を第一に考える義務を負っており、投資パフォーマンスが下がる投資判断をすることができません。

PRIの策定にあたって、ESGと受託者責任の関係が各国の法律事務所により分析され、投資の意思決定にESGを考慮することは、受託者責任に違反しないことが整理されたのです。ここから、多くの機関投資家がパフォーマンスを上げる投資活動の一環としてESGを考慮するようになりました。

──ESG投資は世界でどれほどのペースで拡大しているのでしょうか。今注目を集めている理由と今後の見通しについて教えて下さい。

ESG関連投資は急拡大しています。ブルームバーグ・インテリジェンスによると、ESG運用資産残高は2016年の22.8兆ドル(約2495兆円)から、2018年には30.6兆ドル(約3348兆円)に増加しています。さらに、2025年までに53兆ドル(約5800兆円)に達し、全世界の合計運用資産残高の3分の1以上を占めると予想されています。

ESG投資が盛り上がる要因は大きく3つあります。1つは、世界経済がESGの失策を経営リスクとして真剣にとらえているからです。World Economic Forumが毎年発表している「グローバルリスク報告書 2021年版」でも、最も発生確率が高く最も影響が大きいリスクとして、「気候変動への対応の失敗」と「感染症の拡大」が挙げられています。今、世界中でCOVID-19が大きな影響を及ぼしていますが、気候変動に対してもそれと同じくらいの危機感を持っている、ということです。報告書の評価には経済、地政学といった項目も入っていますが、リスクとして重視されているのは、環境、社会、テクノロジーなのです。