次に、これはいろいろな研究があり断定的には言えないのですが、ESG投資は投資効果がポジティブであることです。もう1つは、先ほどのPRIです。2021年7月現在、世界で4171の投資家がPRIに署名していますが、PRIの第6文には「私たちは、本原則の実施に向けた活動や進捗状況をそれぞれ報告します。」とあります。つまり、4171の投資家にESG投資に関する年次報告が義務付けられているのです。こうしたPRIの運用方法も、ESG投資の拡大に影響していると言ってもよいのではないでしょうか。

──ESGと聞くと、社会(Society)や企業統治(Governance)に対する投資と比較して、環境(Environment)に対する投資を連想する人が多いと考えます。実際、どのような企業や事業がいわゆるESG投資で資金を集めているのでしょうか。

誤解されがちなのですが、ESG投資とは、必ずしも「ESGのどれかの分野に当てはまる事業に対する投資」を指すのではありません。外から企業を見たときに一番分かりやすいのがサービスや商品なので、ESG投資に直結するサービスや商品に環境関連が多いということだと思います。

しかし、グローバルのESG投資で最も多い投資手法はネガティブ・スクリーニングです。これは、ギャンブルやポルノなどESGに反する企業を投資対象から外すスクリーニングです。近年では、財務情報にESGに関する非財務情報を加味して投資判断を行う手法も多く採用されています。

ESG投資に関しては、「特定分野のサービスや事業が資金を集めやすい」というより、「ESGに反した企業活動をしていると経営リスクが高いとみなされ、投資家の投資対象から外れてしまう。結果として資金調達の機会を失ってしまう」ということだと考えた方がよいかもしれません。

──スタートアップやVCがESGに目を向けるべき理由はありますか。

VCがファンドを立ち上げるときに、大きな規模になると、機関投資家がLPの候補になります。機関投資家はPRIに署名していますから、ESG投資をすることはVCにとって、ファンドの資金が調達しやすくなるということです。こうして資金を調達したファンドは、当然ESGを考慮した投資を行うため、スタートアップにとってもESGを考慮した経営を行うことで、資金調達の機会を増やせるのです。

ESGを考慮した経営は、外部環境はもとより、従業員の勤労意欲やきちっとした企業統治により経営リスクが減ります。それは当然ながら事業成長にプラスになりますから、投資家から好感を持たれます。このため、ESGの考えを持つことはもはや起業家や投資家として当たり前と言えるのではないでしょうか。