調達した資金は、2021年中にベータ版をリリース予定の世界史データベースの開発に充てる。また、2021年8月には開発速度を上げるため、エンジェル投資家としてCOTENに出資している柄沢氏を同社の技術顧問に招聘した。

とはいえ、事業内容は「歴史」である。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というオットー・ビスマルクの言葉がしばしばSNSなどで引用されるように、確かに歴史を知りたい、学びたいというビジネスパーソンや経営者は多い。例えば、歴史や哲学、宗教などに関するトピックを紹介する『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』(文響社、デイヴィッド・S・キダー 、ノア・D・オッペンハイム著)はシリーズ累計発行部数150万部を突破するほど、人気を集めている。

だが、果たして歴史は“ビジネス”として可能性がある分野なのだろうか。深井氏に話を聞いた。

広報活動のはずだったPodcastが人気を博す理由

「何をやっても、100%の力を発揮できている感覚がなかったんです」

COTENを創業するまでのキャリアを振り返り、深井氏はそう語る。深井氏は九州大学文学部社会学研究室を卒業後、東芝に就職。その後は福岡の電気自動車ベンチャー企業・リーボの取締役COO、ヘルスケアAIベンチャー企業・ウェルモの社外取締役CSOなどを歴任してきた。

今では事業として「歴史のデータベース化」に取り組んでいる深井氏だが、高校時代までは「歴史は受験のための暗記モノ」と思っていた。

そんな深井氏が歴史に興味を持つきっかけとなったのは、大学入学後に先輩に連れられて参加したイベントだ。そこで「人物にフォーカスした歴史」に触れ、歴史の面白さを知る。「もっと歴史を深堀って勉強したい」と考えた深井氏は、人文学を追究するか、もしくは就職を選ぶかで進路を悩むことになる。

「人文学とは『人間とは何か』を考える学問。一時は学問の世界へ足を踏み入れようと思っていたんですが、そうなるとビジネスを諦めることになる。なかなか決断しきれず、最終的には就職の道を選びました。でも、お金を稼ぐことにはあまり興味を持てなかったんです」

「いろいろと経験した末に改めて自分が何に興味を持つのかを考え、人文学へ戻ってきました。同時に、ビジネスの経験を通じて培ってきたAIや経営の知見を掛け合わせられると思ったんです。そしてひらめいたのが、世界史のデータベース化でした」(深井氏)

COTENを創業したのも、歴史から“会社”の形態を学ぶなかで、株式会社にすることが最も人やお金を集めやすいと判断したからだった。