尾原和啓氏(以下、尾原):その質問に答えると、すごくプロセスエコノミーの解像度が上がりますね。いま、楠木さんがおっしゃっていることは、マーケティング用語で「Aha Moment(以下、アハ・モーメント)」と言うことがあります。プロダクトを使っている時に、品質的な価値として「何これ、ヤバい!」というアハ体験があって、その裏側にアハ・モーメントを実現するプロセスがあると、その商品に惚れこんでファンに変わっていくんです。

楠木:「アハ・モーメント」の例えはとても分かりやすかったです。機能や品質で差別化を図れないときは、プロダクトを通じてアハ体験につながるようなものが、ひとつでもあればいいということですよね。

尾原:そうですね。例えばリクルートだと、商品設計をするときに、「当たり前価値」と「ワクワク価値」という考え方をします。商品である以上、最低限備えておくべき機能「当たり前価値」がなかったら使ってもらえないし、ユーザーは失望して離れてしまう。この「当たり前価値」が情報社会の中で共有化されて、高止まりしやすくなっているのが今だと思うんです。

では、プロダクト・イノベーションな体験があった上で、裏側にプロセスがあるときにしか人はプロダクトにほれないかと言うと、そうでもありません。「プロセスだけのワクワク価値でほれ込む」という例としては、デジタルエンターテイメント業界があります。

書籍の中では、BTSの例を挙げています。BTSは、完成度の高い歌とダンスがあり、それぞれのメンバー間にいろんな物語があるので、ファンが病みつきになっているんです。

その一方で、最近Twitter上では「NiziU(編集部注:ソニーミュージックとJYPの合同オーディション・プロジェクト「Nizi Project」から生まれたガールズグループ)は、出来損ないのプロセスエコノミーじゃないか」との議論があります。

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