NiziUは、オーディションの時点から比べるとデビュー段階ではすごくうまくなっているけれど、BTSのレベルには足りてないんです。でも、「当たり前価値」として聴いて楽しいですし、「つい一緒に口ずさみたくなる」というレベルは超えています。

楠木:なるほど。

尾原:そういう意味では、「ワクワク価値」が「当たり前価値」を超えていれば、けっこうカバーできてしまうのではないか、というのが僕の今の仮説です。

例えば、「楽天市場」にはそういう店舗が多いです。日本酒だったり、ドレッシングだったりに生産者のこだわりが反映されていて。それぞれの商品に物語があり、モノ以上にモノを感じられるタイプの商品だと、「楽天」が強いんですよね。

人は「モノそのものを味わう解像度」を上げていくよりも、「物語を味わう解像度」を上げていくほうが楽しかったりします。みんながワインのソムリエにはなれないけど、「ワインを作っている人の物語」の語り部にはなれるからです。

楠木:なるほど。日本だと、昔からある工芸品とかは自然とそうなっていますよね。

尾原:民芸品的な世界観に近いものだと、「高校野球」というゾーンもある。つまり、プロ野球のレベルには足りていないんだけど、高校生が「おらが町の代表」になったときに、当たり前品質の基準が劇的に下がって、プロセスエコノミーの比重が劇的に上がる現象が起きています。

僕はインターネットって、小さな「おらが町の高校野球」がたくさん作れる部分に面白さがあると思っているんですよね。

楠木:確かに、いろんなデジタルインフラやテクノロジーがなければ、プロセスエコノミーは特殊な条件が揃っているところでしか成立しなかったですよね。

尾原和啓著『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』(出版:幻冬舎)
尾原和啓著『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』(出版:幻冬舎)

尾原:おっしゃるとおりです。プロセスエコノミーが成立してきたのは、「インターネットが普及し、動画や画像で日々のこだわりが簡単にシェアできるようになってきたからです。

楠木:いずれにせよ、プロセスの価値をうまく伝えることができたら、ちょっとやそっとじゃ代替可能じゃないものになりますね。

実は産業財に効果的な「プロセスエコノミー」

尾原:最初に楠木さんが提示してくれた、「プロセスエコノミーは消費財には使えるけど、産業財には使えるのか?」というお話ですが、実は僕、産業財にも「役に立つから意味がある」マーケットが出てきていると思っています。

実際にアメリカでは、BtoBマーケティングではなく、HtoH(Human to Human)マーケティングという風に言われています。Business to Businessと言っているけど、最終的に選んでいるのは、ビジネスをしている“Human”だよねという。