なおかつ、BtoB取引のほうがBtoCより取引の期間が長いじゃないですか。
楠木:確かにそうですね。
尾原:そこで「当たり前価値」が欠如していたら、「足切りです」という話になると思うんですけど、足切りラインの上だったら、物語価値が混ざりやすい可能性は産業財の方があるな、と個人的に思っています。
楠木:それは面白いですね。僕がいま思いついた例で言うと、昔苦しかった時にリスクを取って融資を実行してくれた銀行のことを思うと、成功して大きな会社になってからも、他の銀行とはあまり付き合いたくない、というのがありますよね。
尾原:そうですよね。銀行なんてまさに、「当たり前価値」の部分に差が付きにくくなってきていて。そうすると、「いざというときに応援したいか」や「あの人に絶対恥をかかせたくないからお金を返す!」みたいな感情的な価値が生まれる。
楠木:それは結局、Human to Humanなわけですよね。繰り返しの取引や長期的な関係性を考えると、むしろBtoBのほうが、自然とプロセスエコノミーでうまくいっているところが多いのかもしれないですね。
尾原:そうです。もともと信用金庫のような装置って、エモーショナルな人とのつながりで、「あの人に応援されているからやりきる!」みたいな力があります。
楠木:(金融機関から見た)融資先の信用でも、その人のプロセスをきちんと見ていかないと、本当のところは評価できないというのもありますよね。
尾原:はい。なおかつ、そこに自分のプロセスを評価してくれる人が現れると、その人の評価によって成長しやすくなるという、フィードバックの部分もある。まさに本の最終章では、「実はプロセス的なものを楽しみながらやったほうが、人間って成長する」という話をしていて、そういった観点も大事なのかなと思います。
「プロセスエコノミー」との付き合い方
楠木:最後に、僕が読んだ感想の論点で言うと、一度「プロセスエコノミー」でプロセス価値をうまく伝えられている人は、相当規律を持って生きないとダメだなと思うんです。というのは、何かあってお客さん側が幻滅してしまうと、全部ぶち壊しじゃないですか。それは供給者側にかなりの規律を要求することだな、と。
これまでいろんなかたちで作ってきたプロセスの価値が、一瞬にして失われることもあるだろうなと思いました。
尾原:そうですね。プロセスエコノミーにおいて、人は、「アイツはこれを絶対やる男だ!」という、信念にほれているので、やってほしくないことをやった瞬間に、ほれなくなってしまう危険性がある。