また、本作を見終えた人が最も疑問に思うであろうポイントが美容室を訪れたギフンが髪を赤く染めたパートだろう。イエス・キリストを裏切り、処刑のきっかけを作ったユダは、赤毛として描かれることもある。イカゲームという裏切りの地獄において、人を信じ続けることで復活したギフンが、どうしてユダになろうというのか。

その真意は分かりかねるが、最終的に主人公が髪を赤く染めたことについて、筆者はこれまで語ってきたようにキリスト教が関係していると思っている。

日本のコンテンツに足りない「世界に通じる普遍性」

イカゲームはデスゲーム系作品としてヒットしたのではない。その背景にキリスト教という世界的に共感される物語のフレームを仕込み、人の持つ普遍的な内面を描くことでヒットしたのだ。日本のコンテンツはアイデアやディテールに優れていても、こういった世界共通で共感を呼ぶ大きな物語のフレームワークづくりに弱点があるのかもしれない。

例えば、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』には、地上・半地下・そして地下という3つの階層が登場する。これはまさに同じキリスト教の天国・煉獄・地獄のメタファーだと筆者は考える。また詳細は伏せるが、ラストシーンの壮絶な惨劇は聖書にある「金持ちとラザロ」の寓話(ぐうわ)そのものだ。

日本は宗教的にも地理条件的にもユニークな立ち位置にある国だ。米国で興行収入4000万ドル超を記録し、世界中で「怖すぎる」と話題を席巻したアリ・アスター監督『ミッドサマー』。この映画はキリスト教徒という目線から見た異教徒(土着信仰)に対する恐怖を表現したものだが、日本のような多様な宗教観を持ち合わせている環境で生まれ育った人には理解できない部分が多い。裏を返せばミッドサマーはそれゆえに世界的にヒットした。そう考えると、グローバルで理解される前提条件を物語に組み込むことの重要性が分かってもらえるだろう。

韓国は国民の3割がキリスト教徒である。音楽業界で言えばクリスチャンネームを持つK-POPアイドルも多い。例えば、男性アイドルグループ「SHINee」のテミン、女性アイドルグループ「TWICE」のチェヨン、「MAMAMOO」のファサなどがクリスチャンネームを持つ韓国アイドルとして有名だ。

NetflixやYouTubeといった世界共通のプラットフォームが、コンテンツの垣根をなくしていく今、その国独自のビジュアルは注目を集めるための大きな強みになる。イカゲームで言えば、緑色のジャージは欧米を中心にとてもユニークに見えただろう。