地球観測やIoTサービス、宇宙デブリの除去などさまざまな用途での活用が見込まれており、開発コストが安く済むため民間企業でも参入しやすい。米国のSpaceXなどがその代表格だが、近年は日本でもアクセルスペースやアストロスケール、ALEなど複数の関連スタートアップが生まれている。

Pale Blueが開発するのは、その小型衛星に取り付けるためのエンジンだ。

従来の小型衛星はコストや重量の観点からエンジンを搭載していないものも多かったが、それによっていくつかの課題が発生していた。たとえば空気抵抗や重力による軌道のズレを定期的に修正できないため、軌道が徐々に落ちて寿命が縮んでしまう。また運用を終えた衛星を軌道上から離脱させることができず、宇宙デブリとして漂ってしまう原因にもなっていた。

Pale Blueで代表取締役を務める浅川純氏によると、近年は「宇宙空間でのサステナビリティを評価するような仕組みができ始めている」。そのため使い終わった衛星をきちんと廃棄する目的で、エンジンのニーズが増してきているという。

実際、グローバルではすでに40〜50社ほどの企業が小型衛星用エンジンの開発に取り組んでいる。中でも浅川氏の話ではヨーロッパの研究機関からスピンアウトしたEnpulsionが一歩先を進んでおり、宇宙実証の成功を機に顧客を増やした。

一方で​​Enpulsionを除くと、Pale Blueと近しいフェーズの企業も多いそうだ。小型衛星用のエンジンは「安全性、コスト、多軸方向への推進力、燃費」の全てを兼ね備えていることが求められるため、実用レベルの製品を作るのが難しい。

今は各社がそれぞれの技術を基に製品の研究開発を進め、宇宙実証に向けた取り組みを加速させている状況だ。

Pale Blueで代表取締役を務める浅川純氏
Pale Blueで代表取締役を務める浅川純氏

東大発の独自技術を武器に、革新的なエンジン開発へ

その中でPaleBlueの強みとなるのが、水を推進剤として用いる技術だ。

水のメリットは安全無毒で、取り扱いやすさや⼊⼿しやすさに長けていること。燃費などの面では水以外の推進剤を用いた他社製品の方が優れているものもあるが、顧客にヒアリングをして分かったのは、何より使いやすさと安全性に対するニーズだった。

またエンジンを搭載した衛星をロケットに載せる際の“安全審査”においても、水推進機を使うことで作業コストを10分の1ほどに軽減できる可能性があるため、その点にも「間違いなく魅力を感じてもらえることがわかった」(浅川氏)という。

もともとPaleBlueは東京大学の「⼩泉研究室」における基礎研究を社会に実装することを目的として始まったスタートアップだ。⼩泉研は⼩型衛星⽤のエンジンに関する研究に定評がある研究室で、浅川氏も博士課程では「水を推進剤とした小型衛星推進機の研究と実応用」に取り組んでいた。その際の研究がPaleBlueのコアになっているわけだ。