「立ち上げ当時のデザインチームは5人。その中で女性は私のみでした。『女性ユーザーが増えるようなアイデアを考えて』と、女性の声や目線を代表するような意見を求められた時に、恋愛・婚活が目的のサービスだからといって、赤やピンクを使ったり、“キラキラ”したりするのは違うのではないかなという、勘が働いたんです。

「当時はまだ『マッチングアプリ』という言葉も世の中では馴染みがなかったですし、『“出会い系”でしょ?』というような誤った認識も残っていて業界そのものへのイメージも良いとは言えない状況でした。『サムシングブルー(編集部注:花嫁の幸せを願うおまじないアイテムの1つで、聖母マリアの象徴である青色を結婚式のなかに取り入れるというもの)』という言葉もあるように、ブルーは誠実な恋愛の延長線上にある結婚を想起させる色ですし、サービスそのものを洗練されたデザインにしたくて、ミントブルーを提案しました」(酒匂氏)

Pairs公式サイトのスクリーンショット
Pairs公式サイトのスクリーンショット

海外では、ほぼ同時期に「Tinder」がリリースされていたものの、国内ではマッチングアプリ市場は未成熟な中で、Pairsは着実にユーザーシェアを拡大。2013年10月に台湾版をリリースし、酒匂氏が在籍していた2018年2月には累計会員数700万人を突破した。

「やっぱり、一から携わったサービスが数百万人に使われるようになるという経験は何ものにも代えがたくて。いちデザイナーとしてはもちろん、プロダクトオーナーとしてKPIを達成するためにアイデアを考え、チームメンバーを導いていったことが、今の基礎になっています。自分自身でも100万人に使ってもらえるようなサービスを生み出したいと思って、独立することにしたんです」(酒匂氏)

自身の得意分野を活かせるのはどんなプロダクトか──。受託案件を手がけながらリサーチを進める中、もとの職場を離れたことで見えてきたものがあったと酒匂氏は振り返る。

「エウレカでは、共同創業者の西川順さん(現・franky取締役COO)が当時すでにカルチャー醸成に取り組んでおり、多くのメンバーにとって生理について話すことへのためらいがありませんでした。生理休暇もありましたし、トイレには当たり前のようにナプキンが備えつけてありました」

「独立してから他の企業と接してみると、生理痛でつらそうにしながら働いている方もいましたし、『生理休暇なんてないよ』という声もありました。そこではじめて、生理に対して課題意識を持つことができたんです」(酒匂氏)