新人ホストに120万円の損害賠償をせびるホストクラブの「理不尽な店内搾取」ホストクラブの幹部が作成した合意書

「『爆弾』をやったとして、店に120万円を払う『合意書』を書かされました」。20代前半のホスト歴5カ月のタクヤ君(仮名)は、こう打ち明けると下を向いた。11月下旬、店舗幹部3人に閉店後、2時間半にわたって詰められた末、合意書に署名。翌日からは取り立て電話も掛かってきた。悪質ホスト問題で女性の被害に注目が当たる中、人知れず苦しむ新人ホストの証言を伝える。(ジャーナリスト 富岡悠希)

ホストが恐れる
「爆弾」行為とは?

「卓でお前、『爆弾』話したでしょ」「女の子が『切れ』たら、どう責任取れる?」

 11月27日午前1時半過ぎ、タクヤ君は働いているホストクラブ店舗のVIPルームにいた。目の前には、店舗幹部3人(プロデューサーのS・専務のA・代表のJ)が並ぶ。主にNがタクヤさんに威圧的な態度で質問を投げかける。このホストクラブは、大手グループの店舗の一つだ。

 ホスト業界で、「爆弾」とはホストを対象にした禁止行為を指す。客の横取りや、他ホストの個人情報を漏らすことなどが含まれる。「切れ」るとは、女性がホストクラブとの縁を切って、来店しなくなることを指す。

 タクヤ君は、この数時間前に先輩ホストYのヘルプとして、女性客Xと接していた。その際、大阪への社員旅行で起きた、次のようなことを話した。

 深夜、ホテルの自室で休んでいると、「社長」と呼ばれている30代後半の男性が入ってきた。そして、「タクヤ、お前、風俗経験がないんだって? サービス業についていいるのに、経験がないとダメだろ」。そう持論を展開すると、タクヤ君が嫌がっているのに、電話をして女性を呼んだ。タクヤ君は、その気にならず、女性に事情を説明し、1時間ほど会話をしただけで帰ってもらった。

 話を聞いた女性客Xは、「そんなことがあったんだ」などと反応しただけで、特段、不愉快な様子を見せなかった。しかし、店舗幹部らは「風俗で働く女性も来るのに、風俗サービスを嫌がると話すのは『爆弾』行為」と認定。タクヤ君を閉店後に呼び出した。

 責任の取り方を聞かれたタクヤ君は「LINEとか電話で、(女性客Xの担当ホストである)Yさんに謝罪します。火曜日の営業日にも、直接謝ります」と答えた。

 しかし、店舗幹部らは納得しない。「それだけでお前、何とかなると思うなよ」。こう、すごんできた。

 他の新人ホストたちは帰っており、誰かの助けは望めなかった。幹部らとは、普段はあまり接することはない。その彼らが、爆弾行為についてどう思うのか、なぜそんなことをしたのかなどを繰り返し聴いてきた。

 時間の経過と共に追い詰められていったタクヤ君は、頭が徐々に混乱してきた。そして、〈お金を払うと言えば、この場が終わる〉と考えるようになった。