越境学習によってもリフレクションが促されていく
人事担当者ができるリフレクション支援の最後に、企業の人材育成の仕組みの中に「越境学習」を組み込むことをあげておきたい。法政大学の石山恒貴教授によると、越境学習とは「自分にとってのホームとアウェイを行き来することによる学び」であり、「日常の職場とは異なる環境に身を置いて活動すること」である。そして、所属する企業とは明確に異なる領域に属する人々とのコミュニケーションが必要な越境学習は、本業の業務遂行にポジティブな影響を与えることが明らかにされている。
石山教授によると、越境学習と経験学習は整合する。すなわち、越境先で経験・内省し、持論化した形式知を自社に取り入れようとする。しかし、自社においては容易に成功しない。自社の仕事の進め方や価値観と異なるため、反発を受けてしまう可能性があるのだ。このような状況を踏まえ、再び内省をし、自社に溶け込ませる工夫を行う。そして、そこで考えられた工夫を越境先で再び話し合う。こうした2重のサイクルで、個人はより深い学習をすることになる。そして、所属が異なることによって生じる“意味を調整する経験”は、既に持っている信念・価値観・前提の妥当性を検討する「クリティカルリフレクション」をもたらす可能性がある。例えば、私が講師を務める立教大学大学院リーダーシップ開発コースにおいて、学生はいままでに接したことのない多様な業種に属するメンバーによるプロジェクトワークが課せられる。その過程で、学生(社会人が中心)はいままでに触れたことのない考え方や価値観に遭遇することになる。このコースで学ぶ社会人大学生たちの間に、多くのクリティカルリフレクションが起こっている様子を目にする。
以上のように、人事担当者が越境学習を会社の制度とすることにより、クリティカルリフレクションが生まれ、社内にイノベーションを生む苗床になる可能性がある。予測困難な時代には、意識的にクリティカルリフレクションが生じるような環境を、人事担当者が用意することも必要になるのではないだろうか。
以上、人事担当者ができる経験学習の「リフレクション支援」について検討した。人事担当者が社員のリフレクションを支援する方法はまだまだあるかもしれないが、上述したことは、適切な経験学習やリフレクションを行うための土台となると思われる。いずれにせよ、組織文化を変化させるためには多くの時間と労力が必要になる。これらを実現するためには、人事担当者の信念と熱い思い、やり抜く力が必要になるだろう。