心理的安全性の高いチーム作りや職場環境が大切

 次に、人事担当者によるリフレクション支援を考える際に重要になるのが、「学習環境の整備」であろう。具体的には、心理的安全性の高い組織を作る必要がある。九州大学の山口裕幸先生は、心理的安全性を次のように定義している。「チームの心理的安全性とは、このチームでは率直に自分の意見を伝えても、他のメンバーがそれを拒絶したり、攻撃したり、恥ずかしいことだと感じたりして、対人関係を悪くさせるような心配はしなくてもよいという信念が共有されている状態を意味する。単なる仲良し集団ではなく、ミスやエラーのような個人にとっては痛みを伴う経験でも、それを開示しあったり、問題点を指摘しあったりして、そこからメンバー全員でより適切で効果的な判断や行動のあり方を学び、共有していくことを可能にする集団の状態」。

 このような風土を作るためには、人事担当者は心理的に安全な学習環境が整備されているかについてのサーベイ・フィードバック・システムを導入し、マネジャー昇格のための人事評価に反映させることも検討する必要があるだろう。

 加えて、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソンが提唱している心理的安全を高めるためのリーダーの行動を管理職教育の中に取り入れることも検討すべきだ。

 心理的安全を高めるためのリーダーの行動は、(1)自分のことを自己開示し、普段から、自分から声がけする。相談があった場合は忙しくても必ず時間をとるなどの行動により実現する「直接話のできる、親しみやすいリーダーになる」 (2)部下に情報や専門知識を提供してほしいと暗黙のうちに促す「現在持っている、知識の限界を認める」 (3)失敗に対する寛容さを示す「自分もよく間違えることを積極的に示す」 (4)個人に内在する知識を引き出すために、意見や考えを出してほしいと求める「参加を促す」 (5)失敗から学習することがイノベーションにつながることを強調する「失敗は学習する機会であることを強調する」 (6)行動につながらない抽象的な言葉による話し合いを避ける「具体的ですぐに行動に移せる言葉を使う」 (7)望ましい行動はどこまでで、どこからは行きすぎなのかを示す「境界線を明示する」 (8)責任の範囲を明確に示す「境界を超えて、行きすぎた行動をとった場合、その責任をメンバーに負わせる」、というものである。

 以上のような、リーダーシップ行動をマネジャーがとることにより、メンバーは本音を話せるようになる。前述した1on1も、本音でマネジャーと話すことができて、はじめて効果を発揮する。また、たとえ失敗したことであっても、恐れることなくチーム内で共有し、その原因をリフレクションすることが可能となり、そこでの学びはチーム全体の実践知となる。さらに、キャリア採用者など、多様な人材の意見を聞き入れるリーダーシップをマネジャーがとることは、古い習慣や風土をリフレクションし、見直すきっかけとなる可能性がある。人事担当者としては、このような行動をマネジャーがとれるように支援することが必要であろう。