経験学習での、マネジャーから部下への“リフレクション”支援を考える

人材育成の手法のひとつとして知られる「経験学習」において、重要なのが「内省的観察」のステップだ。“リフレクション”と呼ばれるこの行動は、研究者によって多くのとらえ方(解釈)があり、正しい実践がなかなか難しい。組織における効果的な“リフレクション”を実現するために、マネジャーは部下をどう支援すべきか――人事担当者向けのセミナーなどに多数登壇している永田正樹さんが解説する。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

“教え上手のマネジャー”が取り組んでいること

 前稿、「経験学習における“リフレクション”は、どうすれば効果的に行えるか?*1 」では、リフレクションとは何か、ビジネスパーソン個人がどのようにリフレクションに取り組めばよいか、について考察した。今回は、「マネジャーが部下のリフレクションを促すためにどのように振る舞えばよいか」について、これまで、数多くの“教え上手のマネジャー”にインタビューし、質的に分析してきた私の経験に基づいて考えてみたい。

*1 HRオンライン 「経験学習における“リフレクション”は、どうすれば効果的に行えるか?」

 教え上手のマネジャーには、部下のリフレクションを促すために共通して取り組んでいることがある。

 第1に、心理的安全の醸成である。「心理的安全性」とは、ハーバード・ビジネススクール教授のエイミー・エドモンドソンによると、「チームメンバーがお互いに、このチームは人間関係上のリスクをとっても安全であると信じている状態」のことである。これを九州大学の山口裕幸先生が、「チームの心理的安全性とは、このチームでは率直に自分の意見を伝えても、他のメンバーがそれを拒絶したり、攻撃したり、恥ずかしいことだと感じたりして、対人関係を悪くさせるような心配はしなくてもよいという信念が共有されている状態を意味する。単なる仲良し集団ではなく、ミスやエラーのような個人にとっては痛みを伴う経験でも、それを開示しあったり、問題点を指摘しあったりして、そこからメンバー全員でより適切で効果的な判断や行動のあり方を学び、共有していくことを可能にする集団の状態」と、わかりやすく、再定義してくれている*2

*2 山口裕幸先生の論文(2020) 「組織の『心理的安全性』構築への道筋」より

 教え上手のマネジャーは、「失敗はみんなが通る道であり、マネジャーである私自身もそうだった」「失敗を恐れるな、100回失敗したら褒めてやる」と、部下に繰り返し伝え、フラットな関係を心がけることによって、心理的安全を醸成している。このことにより、チームメンバーが安心して、実験、質問、エラーの指摘・議論など、経験学習を促進するリスクや脅威を伴う行動に取り組むことができる状況を作り出し、これらの行動が、学習を生み出し、高いパフォーマンスをもたらしていると思われる。

 エドモンドソンは、心理的安全を高めるためのリーダーの行動として、(1)直接話ができる、親しみやすいリーダーになる、(2)現在持っている、知識の限界を認める、(3)自分もよく間違えることを積極的に示す、(4)参加を促す、(5)失敗は学習する機会であることを強調する、(6)具体的ですぐに行動に移せる言葉を使う、(7)望ましい行動はどこまでで、どこからは行き過ぎなのか、その境界線を明示する、(8)境界を超えて、行き過ぎた行動をとった場合、その責任をメンバーに負わせる、を提案している*3 。これらの指針は、心理的安全性の高い職場をこれから作ろうとするマネジャーのひとつの道標になるであろう。

*3 エイミー・C・エドモンドソン著『チームが機能するとはどういうことか』英治出版より