経験学習における“リフレクション”は、どうすれば効果的に行えるか?

人材育成の手法のひとつである「経験学習」において、「具体的経験」に続くステップが「内省的観察」だ。「リフレクション」と呼ばれる、その行動は、研究者によって多くの捉え方があり、実践することがなかなか難しい。日々働く中で、効果的なリフレクションを実現するために、個人はいったいどうすればよいのか? 人事担当者向けのセミナーなどに多数登壇している永田正樹さんが、経験学習における“リフレクション”について解説する。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

経験学習での“リフレクション”は、なぜ重要か?

 2006年に経済産業省が提唱した「社会人基礎力」は、これまで、大学教育、就職・採用、新入社員研修などで活用されてきた。しかし、産業構造や就労構造の変化、人生100年時代が予測される中で、ビジネスパーソンにとって、“学びなおすこと”の重要性が高まっている。そのため、社会人基礎力は「これまで以上に長くなる個人の企業・組織・社会とのかかわりの中で、ライフステージの各段階で活躍し続けるための求められる力」と再定義されている。その際に学び続けるための重要概念として取り上げられたのが“リフレクション”である。

 経済産業省・中小企業庁による「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」の報告書によると、個人として取り組むべきアクションプランとして、「自らが持つ・持たざる能力や体験を振り返ること(リフレクション)を通じて成長し続けるとともに、自分の強み/弱みを認識(経験/スキルを棚卸し)することで、今後のキャリアの可能性を開いていくことが期待される」とされている。すなわち、個人が変わり続け、自ら主体的にキャリアを築くことが求められ、そのためにはリフレクションが重要であるということであろう。

 リフレクションは、多くの企業で人材育成のベースとなる理論として活用されている「経験学習」理論のステップの一部である。経験学習とは、何らかの「経験」をしたら、その経験が、自分にとって良い経験だったのか、悪い経験だったのかを客観的に「内省」した上で、その経験の持つ意味を一般化・概念化し、自らが使いやすいマイセオリーである「教訓」を紡ぎ出し、新しい体験に「適用」することであるが、この中の、「内省」「教訓」がリフレクションに該当する。経験学習サイクルを提唱したデービッド・コルブは、経験から学ぶためには、経験を振り返り、教訓を引き出す「リフレクション(reflection)」が欠かせないと述べている。

 このように、国からも、所属する企業からもビジネスパーソンに求められているリフレクションであるが、実際に自分の仕事やキャリア構築に組み込むことは容易(たやす)くない。そもそも、本稿でリフレクションについて語ろうとしている私自身も、リフレクションがしっかりできているかというと、褒められたものではない。仕事柄、研修やセミナーで登壇することも多いが、人前で長時間の話をすると、喉が渇く。登壇後は、人前に立つ緊張感からも解放される。そうすると、酒飲みの血が騒ぎ、ビールが飲みたくなる。その状態で主催者に誘われると、振り返りをしないまま飲みに行ってしまう。結果、見事に、研修のプログラムの進行具合の詳細や、受講者の反応などを忘れてしまう。リフレクションができていないと、登壇内容の改善はできないし、登壇者としてのせっかくの経験から何も学ぶことができない。

 北海道大学の松尾睦教授は、著書『経験学習リーダーシップ』(ダイヤモンド社刊)の中で、このようなケースを「振り返りの壁」と呼んでいる。私が登壇する経験学習研修においても、受講者から「リフレクションする時間的・心理的余裕がない」という声がよく寄せられるが、これと同様であろう。もうひとつ、受講者から寄せられる声に「リフレクションする正しい方法がわからない」というものがある。これは松尾先生が同書の中で語られている「教訓化の壁」にあたるであろう。経験を振り返っても、単に、うまくいって喜んだり、失敗して反省するだけでは教訓は生まれない。特に、上司に失敗の責任をなすりつけるなど、他責にしてしまうとその段階で経験学習は遮断されてしまう。

 それでは、どのようにすれば「リフレクション」を機能させることができるのか? 本稿では、これまでのリフレクションに関する研究を踏まえ、現場でリフレクションを機能させるためのヒントを提供したい。