「まあ、ネタを拾うつもりで、1回ちょっとやってごらんなさい。面白いわよ――」

 売れないけれどもライターである俺にとって、母は一番弱い言葉で突いてきた。こうして俺は亡き母の言う通り、価格にして約100万円の神戸市郊外にあるアクセスのとてもよくない戸建て住宅を購入。ネットで客付けをした。

大家としてのデビュー戦は
「大人のパーティ会場」と化した物件

 ネタ拾い、大家業体験として、このデビュー戦は、手前ミソで恐縮だが、とてもいいスタートを切り、勝利で終えた――と傍目には映るだろう。

 というのも、価格100万円の物件を月額5万8000円で約4年間賃貸に出し、滞納などはなし。その後、150万円で売却できたからだ。

 だが、その内実はとても勝利だの成功だのという言葉では片づけられない。たまたま運よく負けずに済ませてもらったというのが、偽らざるところである。

 このデビュー時の物件は入居者が「大人のパーティ会場」として利用、警察沙汰となる。心理的瑕疵物件、犯罪関与物件として売るに売れず、貸すに貸せずで困っていたところ、このとき警察沙汰となった入居者の知人(後で件の大人のパーティの同好の士と知る)から、「居抜きで貸すか、売るかして欲しい」というオファーがあったからだ。

 物件にはその手の趣味の人たちが用いる「道具」だの「玩具」だのが残っている。物件よりも、こちらの方で値がついたのだろう。

 こうした形でどうにか俺の不動産投資、大家業は好スタートを切れた。それに気をよくして、エクストリーム大家家業にのめり込んでいくことになった俺は、その後様々な難問に直面するハメになる。次回、その教訓を詳しく述べることにしよう。

(ノンフィクション・ライター 春川 賢太郎)

>>後編「ワケあり入居者の巣窟と化した『エクストリーム物件』に伸びる、取り締まりの見えざる手」に続く。