日本はなぜそこまで病床数が多いのか?

 そもそも、なぜ日本は世界一になるほどに突出して病床数が多いのでしょうか。
 その理由はいくつか考えられますが、まず1つ挙げられるのは「ビジネス的な側面」でしょう。

「病院がなくなる日」連載(1)健康優良国、日本の病院事情〈PR〉Photo:PIXTA

 日本経済が高度経済成長を経て安定成長期に推移した時期と重なる1960年代から1990年代のピーク時まで、国内の民間病院(医療法人や個人病院)の開業が相次ぎ、それに伴って病床の数も大幅に増加しました。

 高齢者人口が増えて医療需要が右肩上がりに伸びるなか、「病院を開いてたくさんベッドを確保し、多くの入院患者を受け入れる病院経営」にビジネスチャンスを見出したという背景があったとも考えられます。

 そしてこの時期に一気に増えた病院や病床が今まで“生き残って”いるという状況が、日本の突出した病床数の多さの一因になっているのです。

 また、「在院期間=入院日数が長い」ことも病床数が多い理由の1つになっています。

 OECD加盟国の急性期医療の平均在院(入院)日数は、ドイツ8.9日、フランス8.8日、イギリス6.9日、アメリカ6.1日なのに対して、日本は16.0日と突出して長く、韓国(18.0日)に次いで2位となっています。

 ほかの国ならとっくに退院しているような症状の患者が、日本ではまだ入院し続けているケースがあるのです。

 近年は以前に比べてかなり入院日数が短縮されてはいますが、それでも諸外国と比較すると、日本の入院日数はまだまだ長いのが現状です。

 すぐに退院させると病床の空きが増えて、病院経営に影響が出る。病床を減らすより、病床を埋めて(稼働させて)おくほうが利益になる──。

 こうした病院側の事情による入院期間の長期化もまた、日本の病床数の多さに反映されている側面があります。

 入院日数が長引く事情は病院側だけではなく、患者側にも存在します。それは、「社会的入院」というファクターです。

 耳慣れないかもしれませんが、社会的入院とは「本来なら入院治療の必要がない患者が長期入院を続けている状態」のこと。

 例えば自宅介護が困難な高齢患者が介護施設の代わりに入院する。「もう症状はよくなっているけれど、病院に入っていれば何かと安心だから」と考えて病院に留まる。

 こうしたケースが社会的入院になります。

 病院側に「病床を増やし、入院させ続けて病院経営を成り立たせる」「病床を余らせておくぐらいなら受け入れて収益を出す」といった利益誘導的な思惑がある一方、患者側にも「退院したくない」という理由があるのです。

 儲けたい病院と安心したい患者。双方の需要に後押しされた結果、日本では入院日数が延伸し、それに対応するために病床数が増えていったという見方もできるでしょう。 

 こうした理由によって、日本は現在でも他国と比べて「病院も病床も、あり余るほど多い国」になっているのです。