キャリアコンサルタントとしての気づきと学び

「アンコンシャスバイアス」の壁に直面していた垂水さんに、ひとつの転機が訪れる。キャリアコンサルタントの資格取得をきっかけに、キャリアに対する考え方が変化したのだ。

垂水 キャリアコンサルティングの学びは、私にとっては「目からウロコ」でした。結婚せずにバリバリ働いている同僚たちに比べて、私は仕事も育児も半人前と思い込んでいたけれど、そうではなく、「キャリアは一人ひとり多様である」ということを初めて学習したのです。会社で何をしているかだけではなく、親・子ども・市民として、人はいろいろな役割を担っていますよね。それらが混ざり合い、年代とともに役割の比重も変わり、周囲から期待されることも自分自身が求めることも、人によってさまざまなのだと。そして、そのすべてがキャリアとなって、その人の「強み」や、社会に対して果たせる「貢献度」になっていくのだと。「キャリアは多様である」と気づいたことで、やっと、私は自分を受け入れることができたのです。

 新たな気づきを得た垂水さんは、キャリアコンサルタントとして独立する決意をした。もともと、「生涯現役でありたい」という願望があり、「子どもが社会人になったとき、隠居しているのではなく、私は私で世の中に向き合っていたほうが幸せだろう」という思いも背中を押したという。

垂水 キャリアコンサルタントとしての仕事を行うために、企業の人材開発や人事に関わる募集を見ては、片っ端から応募しました。書類選考で落とされても、その会社に手紙を書いて、「とにかく会ってほしい」と掛け合ったこともありました。人材派遣会社に売り込んだり、講師として大学生のキャリア開発に関わったり、転職者を支援するキャリアカウンセリングを行(おこな)ったり……。ありとあらゆる分野の仕事をこなしました。この時点では、キャリアコンサルタントとして何に向かうべきか分からなくて、とにかく、場数を踏まないといけないと考えたのです。週5日間・7つの大学で講師をして、夜はキャリアカウンセリングをするという時期もありました。

 そうして、5年間くらいフリーランスとしてがむしゃらに動いたのですが、アウトプットが増えたぶん、「引き出し」が減ってきて、インプットの必要性を痛切に感じるようになりました。そこで、「学ぶ時間を年間200時間持つ」という目標を決め、筑波大学のキャリアプロフェッショナル講座に通うなど、テーマを定めて学びを深めていきました。そうすると、これまでかき集めてきた知見が整理され、体系化できるようになりました。同時に、人のネットワークも一気に広がり、「○○層の社員を指導してほしい」「□□のテーマで講師をしてほしい」といった専門性のあるオファーもいただくようになりました。こうして、「ダイバーシティ&インクルージョン」と「キャリアオーナーシップ」という、現在の私の仕事の2大テーマが確立されたのです。

キャリアコンサルタントとして独立した当初の垂水さんは、企業の人材開発や人事に関わる募集を見ては、片っ端から応募していったという。