「みんながそれぞれ多様なんだ」という考え方
現在、垂水さんが主軸にしているテーマのひとつである「ダイバーシティ&インクルージョン」――社会の中で言葉そのものは認知され、実現に向けて推進している企業も増えているが、「誤解されている部分も多い」と垂水さんは語る。
垂水 「ダイバーシティ」というと、外国人・障がい者・ジェンダー(性別)・ジェネレーション(世代)など、「属性」で語られることが多く、特別なことと思われがちですが……そうではありません。一人ひとりの価値観や役割、ライフスタイルが違うことを考えると、実は誰もがダイバーシティであり、同じ人の中にもマジョリティとマイノリティの部分があるのです。これに気づいていない人が多いから、職場でも「あの人はマイノリティだ」と見てしまったり、その一方で人と違うところがあるのに無理をして周囲に合わせたりするケースが出てきてしまう。「みんながそれぞれ多様なんだ」と考えれば、フラットにコミュニケーションが取れますし、傾聴もできると思うのです。
「ダイバーシティの推進はパフォーマンスが落ちる」と思われていることも、誤解です。確かに、ダイバーシティを意識すると、これまでのマネジメントスタイルだとうまくいかず、いったんはやりにくくなるかもしれません。ですが、経営側が従業員にしっかり向き合えば、それぞれの人に「自分はこうしたい」という“自分らしさ”に根付いた成長欲求が出てくるはず。そうなれば、仕事をしている時間が意味のあるものになり、結果的に一人ひとりの成果が上がり、組織としても成長できるのではないかと、私は考えています。
垂水さんのコンサルティングのもうひとつの主軸が「キャリアオーナーシップ」だ。これは、いわゆる「キャリア自律」であり、「人に任せるのではなく、自分自身でどういうキャリアを作りたいかを考えて行動すること」を意味する。
垂水 「キャリア自律」のためには、中・長期的に自分のキャリアを考えることが必要です。目の前にある仕事だけを見るのではなく、「○年後にこうありたい」という目標があれば、それを実現するためのネットワークを作る、学ぶなど、準備する意識が生まれます。仕事に自分なりの意味づけができると、仕事に対する姿勢も変わってきます。
私は、「キャリアオーナーシップ」と「ダイバーシティ&インクルージョン」は両輪だと考えています。たとえば、ある会社が、60歳の人を採用したとします。でも、「年齢の多様性がある会社」で終わってしまったら、ダイバーシティには行きつかない。60歳の人に「まだ、あと10年間は働きたい。そのために、こんなふうに私のキャリアを作りたい」というキャリア自律がないと、本当の意味でのダイバーシティは成立しないのです。組織側も、多様な人を採用するだけではなく、個人をキャリア自律させることを目指せば、そこにインクルージョンが生まれます。このように「キャリアオーナーシップ」と「ダイバーシティ&インクルージョン」は繋がっていて、組織にとっても、個人にとっても、その両輪が大切なのです。