物価高騰や経済不安から資産形成に注目が集まる一方で、なかなか行動に移せない人は多い。重要性をわかっていても行動できない背景には「お金に対する思い込み」が邪魔をしている可能性があるという。幼少期の出来事や親の口癖が作り出す、お金のイメージ習慣とは。本稿は、上原千華子『「お金の不安」をやわらげる科学的な方法 ファイナンシャルセラピー』(日本能率協会マネジメントセラピー)の一部を抜粋・編集したものです。
親の「マネーリテラシー」は
子どもに引き継がれる
IT技術の発達で、情報が氾濫している現代社会。
私たち現代人が1日のうちに触れる情報量は、平安時代の人たちの一生分、江戸時代の人たちの1年分ともいわれます。
一方、私たちの脳が処理できる情報量は、そのうちのほんのわずかです。
そのため私たちは、無意識に自分に必要な情報を取捨選択、処理しています。
NLP(神経言語プログラミング)のコミュニケーションモデルによると、人間の脳は、外部からの情報を取り込んだ後、独自のフィルターを通して自分に必要な情報を受け取ります。
だから、同じ状況下で同じ情報を得た場合でも、人によって受け取り方が違うことがあるのです。
フィルターにはさまざまなものがありますが、お金にまつわる情報を処理する際に特に出やすいのが、不要なものを排除する「削除」、事実を自分に都合よく歪めてしまう「歪曲」、「Aとはこういうものだ」と一般化する「一般化」の3つです。
これらのフィルターは、記憶や自分の価値観などに紐づいています。
そのため、幼少期の出来事がお金のイメージを作り上げ、それによって形作られたフィルターを通した情報ばかりを集めて行動してしまう可能性があるのです。
具体例を見ていきましょう。
外的な出来事
・宝くじで3億円が当たった。
Aさんの場合
・親から「お金は大事にしまって増やしなさい」と言われて育った
・宝くじに当たって嬉しかったが、すぐに気持ちを落ち着かせる
・よし! まずは貯金をして、どうするか考えよう
・貯金、投資、使う割合を決めて資金計画を立てる
・好きなものを予算内で買い、残りの資金は将来のために増やす
Bさんの場合
・両親は、臨時収入が入るとバーンと派手にお金を使い、上機嫌になっていた
・宝くじに当たって、自分は運がいいとハイテンションに
・よし! バンバン使うぞ!
・普段買えないような高級品を買いまくる
・気がついたらお金が手元にない
このように、同じことが起きても、人によって違う行動をとるのは、フィルターが違うからです。
特に、トラウマやマイナス思考があると、情報を歪める「歪曲」が起こりやすくなります。
このように、よくも悪くも両親のマネーリテラシーや行動が、お金の価値観や習慣として、子どもに引き継がれていくのです。
ちなみに、心理学でいう「思い込み(ビリーフ)」と「価値観」の定義は、厳密にいうと違います。
本稿では、みなさんがシンプルに考えられるように、「お金に関する思い込み」「何にお金をかける価値を感じるか」「お金のことをどう思っているか」など、「お金に関する考え方全般」を「お金の価値観」と定義して、話を進めていきます。