現場に追い討ちをかける「高すぎる目標」
人口減少時代は「無理ゲー」

 人口が右肩上がりで増えて、市場も拡大していく時は「高すぎる目標」はプラスに働く。消費者も労働者もたくさんいるので、高めの目標を見上げながら技術や品質を極めることができた。巨大な国内市場でテストマーケティングして、海外市場で戦うことも可能だ。だから、人口増時代のメイド・イン・ジャパンの日本車、白物家電、半導体が世界を席巻したのだ。

 しかし、人口減少して労働者も消費者も減るとこの好循環がすべて「逆回転」していく。

 まず、市場がシュリンクしていくので、人口増時代の売上規模がキープできない。そこでどうにか「数」で勝負をしようと、薄利多売に傾倒して、ものづくり企業は「安くて高品質」のプレッシャーが強くなる。高度経済成長期の日本でそれができたのは賃金が低いからだが、そういう現実から目を背けてどうにか技術力とコストカットで「安くて高品質」を実現しようとするので、当然、現場は疲弊していく。

 そんなボロボロの現場に追い討ちをかけるのが、「高すぎる目標」だ。人口増時代は頑張れば達成できるかもと希望が持てたが、人口減少時代は「無理ゲー」を強いて、メンタルを破壊することにしかならない。しかし、管理職は自分が若い時の成功体験があるので、現場から「こんなスケジュールではできません」「もうコストカットは限界です」と泣きつかれても、「で?」「それを可能性にするためには何をすればいいのか考えるのがお前の仕事だ」など突き放す。

 そうなると、追いつめられた現場はどうするか。「やってられない」と辞表を出すか、開き直って左遷・更迭されるか、あるいはインチキをするか、だ。

 これがこの30年間ほど「世界一」を掲げてきたものづくり企業の現場でパワハラや不正が次々と明らかになっている根本的な原因だ。無茶なスローガンに耐えきれなくなってきた現場が、これまでのインチキを隠し通せなくなってきたのである。