日本の悲しい過去も…
ヤバい会社にはヤバいスローガンがある
こんな話をすると決まって「こじつけだ!企業の不正はそれぞれが企業の経営者が悪いのであって、スローガンごときで人間は影響を受けない」という反論があるが、実は我々は「スローガン」というものの恐ろしさを身をもって体験した民族だ。
わかりやすいのが、旧日本軍の「戦陣訓」だ。これは1941年(昭和16年)に、陸軍大臣・東條英機が全陸軍に発した戦場での心得のようなものだ。その中でも有名なのが以下のスローガンである。
恥を知る者は強し。常に郷党(きょうとう)家門の面目を思ひ、愈々(いよいよ)奮励(ふんれい)してその期待に答ふべし、生きて虜囚(りょしゅう)の辱(はずかしめ)を受けず、死して罪過の汚名を残すこと勿(なか)れ
— 『戦陣訓』「本訓 其の二」、「第八 名を惜しむ」
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読んでわかるように、「一族の恥にならないように勇ましく戦いなさいよ」くらいの意味だ。現場ではこれを復唱させて、兵士たちの闘争心を高めるという好循環ができた。
しかし、戦局が悪化して敗退に次ぐ敗退となっていくと、「逆回転」していった。圧倒的な戦力差と物資不足で不利になっていくと、「生きて虜囚の辱を受けず」だけが切り取られ、自軍の情報が敵に漏れないよう「投降禁止」のスローガンになった。当時、世界の戦争では「勝ち目がなくなったら白旗をあげて投降、捕虜は人道的に扱わなくてはならぬ」という国際ルールがあったが、日本軍はそれをガン無視するだけではなく、投降してきた米英の捕虜も殺害するという「不正」に走っていく。
それだけではない。敗戦のプレッシャーが強まれば強まるほど、このスローガンは日本全体を「ブラック企業」のようにしてしまう。
たかがスローガンと笑うなかれ、我々はそのスローガンによって、自分自身の首を絞めて、最終的には自らの命を放りだすまで追いつめられてしまった、という悲しい過去があるのだ。
だからこそ、組織人は自分が属する組織の「スローガン」に敏感になるべきだ。「世界一のホニャララ」とか、ひとりよがり的なことが唱えられていないか。現実とかけ離れた精神主義や、過度な組織への忠誠や滅私奉公を求めていないか。
「うちの会社ってもしかしてブラック企業?」と悩むそこのあなた、経営理念やフィロソフィーを確認してみてはどうだろう。
ヤバい会社にはヤバいスローガンがある。不正をやらされたり、「殺されたり」する前に、一刻も早く逃げていただきたい。
(ノンフィクションライター 窪田順生)