【医師が告白】“日本の恥”と酷評された「小児がん検診」を今こそ復活すべき理由「神経芽腫マス・スクリーニング」は本当に集団検診の失敗例だったのか(写真はイメージです)Photo:PIXTA

集団検診の失敗例と酷評
本当に「日本の恥」なのか

「世界に恥をさらした集団検診の失敗例」――2003年に休止(中止ではない)されて以来20年間にも渡って痛烈に酷評され続けている検診がある。「神経芽腫マス・スクリーニング(以下マス)」だ。

 1985年に生後6カ月の乳児全員を対象に全国規模で開始され、その受診率は一時90%超にも上ったが、陽性となり腫瘍が発見されても観察しているうちに自然に退縮するケースがあったことから、過剰診断だとの指摘が相次ぐ。

 さらに02年「この検診を行なっても死亡率は減少しない」というドイツとカナダの研究論文が権威ある総合医学雑誌『New England Journal of Medicine』に掲載されたことをきっかけに否定的な声が高まり、翌03年、休止に追い込まれた。

 以来すっかり、「検診失敗の象徴」にされてきたわけだが、実は08年には、New England Journal of Medicineと並ぶトップ医学ジャーナル誌『Lancet』に、2300万人という世界でも類がない大規模の調査の結果、小児の死亡率減少をもたらしたことが示されたとする広島大学教授の檜山英三氏らの報告が掲載され、その後も京都府立医科大学(21年より教授)の家原知子氏らによって、意義のある検診であったことを証明する研究成果が次々と発表されている。

 それなのに、いまだ03年当時の認識のまま、酷評を繰り返す検診研究の専門家と、それを鵜呑みにして記事化しているメディアに対して檜山氏は「(批判している先生方は医師と言うより統計学者)小児がんがどういうものなのかを知らない」「歴史を度外視して、かつての検診や医療を非難すること自体がナンセンス」と反論し、「今後ゲノム診断から罹患リスクの高いグループが特定されるようになれば、マスは復活するかもしれない」と期待する。

 03年、事業の休止を決定する際、厚労省は「神経芽腫の罹患と死亡の正確な把握」「検診の実施時期変更等、新たな検査方法の検討・評価」「神経芽腫による死亡の減少を目指した臨床診断と治療成績向上のための研究の推進と実施体制の確立」の3点を、再開の条件として掲げた。

 家原氏は、事業を中心となって推進していた京都府立医科大学の澤田淳名誉教授の想いを受けつぎ、これらの宿題に取り組んで来た。一方の檜山氏は、第三者の立場でマスの公正な評価をするよう厚労省から委託され、大規模な疫学調査の主任研究者を務めた。

 マスの開始から休止、現在までの経緯を、当事者である家原氏と検証において中心的な役割を担った檜山氏に聞いた。