今も続く小児の「神経芽腫」罹患
日本での解析を待たずに検診休止

【医師が告白】“日本の恥”と酷評された「小児がん検診」を今こそ復活すべき理由広島大学 檜山英三教授

「神経芽腫」は主に0~4歳児の腹部などの神経組織から発生する腫瘍で、小児がんの中では、白血病、脳腫瘍、リンパ腫に次いで多く、我が国では年間320人前後が新たに罹患している。従来から、1歳未満の乳児で診断された症例は予後がよく、一部には自然に消失する(退縮する)ものがある一方、1歳半以降に発見される症例は進行したものが多く、死に至るケースが少なくないことが知られていた。

 神経芽腫はカテコラミンという物質を作る腫瘍であり、罹患した場合には尿中のカテコラミンの代謝物であるバニリルマンデル酸(VMA)、ホモバニリン酸(HVA)が高くなることから、「乳児期にこの腫瘍を早期発見すれば治療成績が向上する」との期待から、尿中VMA・HVA測定による乳児期のマス・スクリーニングが、世界に先駆け1973年に京都市でスタート。その後、国の事業として全国的に施行されることになった。

 すると、神経芽腫の罹患数は2倍以上に増加し、乳児期の予後良好な腫瘍が予想以上に多く見つかったことから、従来診断されないまま自然に消失していた腫瘍を過剰診断しているのではないかとの疑念が医師の間で湧き起り、カナダ、ドイツの短期間の介入研究が死亡率を低下させる効果に対して否定的な結果であったことを受けて、本邦での解析を待たずに03年、休止が決まる。

【医師が告白】“日本の恥”と酷評された「小児がん検診」を今こそ復活すべき理由京都府立医科大学 家原知子教授

 このときのことを、家原氏は次のように振り返る。

「当時私は、澤田教授の下でデータ登録等を行なう平研究員でした。今と違ってオンラインによる登録システムは存在しないので、全国から個別に送られて来る紙の書類をひたすらPCに入力していました。02年には、マスで陽性が確認された患者さんの症例がちょうど2400例ぐらいになっており、小児がんの学会で報告したのですが、亡くなられた33人中16人の死因が治療関連死であったことをマスコミが問題視しました。抗がん剤治療中に感染症を発症して亡くなられた場合などは、医学的には治療関連死という分類になるのですが、それがまるで過剰診断のせいで亡くなったかのように報道されてしまったのです」