「感情的な涙」と「偽の涙」を使って実験

 一つ目の実験では、実験参加者の男性にマネーゲームをプレイさせて攻撃性を誘発し、その攻撃性が女性の涙のにおいをかぐことでどう変わるかが検討された。ゲームは、相手の不正により自分のお金を不当に奪われるという怒りを誘発する要素と、相手から損得なしにお金を取る復讐的な要素が組み合わさったものだった。

 涙は、22〜25歳の6人の女性がさまざまな感情に対する反応として流した涙(感情的な涙)と、生理食塩水を目から頬に流れるようにして採取した偽の涙の2種類を用意した。

 男性には、女性の頬をつたっていない生理食塩水のにおいを3回かがせた後、感情的な涙と偽の涙のにおいをランダムな順で10回、約35秒の間隔をあけてかがせた。実験を完了した25人(平均年齢25.84±3.46歳)を対象に解析した結果、男性の攻撃性は、感情的な涙のにおいをかがせたときには43.7%減少することが明らかになった。

 次に、2つ目の実験として、ヒトの嗅覚系が無臭である涙に含まれるシグナルを処理できるのかどうかを調べた。その内容は、実験室で62種類のヒトの嗅覚受容体をHana3A細胞に発現させ、感情的な涙と偽の涙にさらした後、その活性化の様子をリアルタイムで観察するというものだった。その結果、4種類の嗅覚受容体が感情的な涙に用量依存的に反応することが示された。

 最後に、26人の男性(平均年齢27.2±3.3歳)を対象に一つ目と同様の実験を行い、感情的な涙と偽の涙のにおいをかいだときの脳の変化を機能的MRIで調べた。その結果、攻撃性を誘発するゲームをしている間には、攻撃性に関連した2つの脳領域(左島皮質前部と両側前頭前皮質)が活性化するが、感情的な涙のにおいをかぐことで、これらの領域の活性化が抑制されることが示された。

 Agron氏らは、「われわれの研究から、マウスと同様に、女性の涙にも男性の攻撃性を抑制する化学信号が含まれていることが明らかになった。この結果は、感情的な涙は人間特有のものであるという考え方に反するものでもある」と話している。(HealthDay News 2023年12月22日)

https://www.healthday.com/health-news/mental-health/scent-of-a-womans-tears-could-lower-anger-levels-in-men

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