ぬいぐるみ治療で大事なことは
顧客の気持ちをくみ取るセンス

 現在、ぬいぐるみ病院に在籍するスタッフは25人。治療を行う16人のドクターをはじめ、入院中のぬいぐるみの写真を撮るカメラマンや、撮影した写真をメールで報告するナース、エステサロンのエステティシャンが所属している。

「ドクターの経歴は、裁縫が得意な人や、仕事で衣装製作に関わっていた人など多種多様。その一方で、ぬいぐるみの個性を残してお客さまの気持ちをくみ取るセンスは、全員に共通して備わっています。ぬいぐるみの治療は、傷や穴を縫合してキレイにすれば完了ではなく、その子の個性を維持しつつ、お客さまの希望に応えるのが私たちの役目。お客さまの希望をかなえるまで何度も治療を行うので、結果的に失敗しないと考えています」

 スタッフの中には、元々はぬいぐるみの治療を希望する依頼主だったが、後にドクターとして加わったメンバーもいるという。そして堀口氏も、幼い頃からぬいぐるみとともに生活し、苦難を乗り越えてきたひとりだ。

「10年前に『大切なぬいぐるみがケガをしたが、治す所がない』という知人の悩みを耳にしたのが設立のきっかけです。私も子どもの頃からぬいぐるみの存在に救われていたので、ぬいぐるみを愛する人の不安が軽くなればと思い、病院を立ち上げました。スタッフも同様に、当院で働くよりも前からぬいぐるみを“命の存在”と捉えています。治療を行う側が、ぬいぐるみと暮らすご家族の気持ちに共感しているからこそ、こまやかなサービスにつながっているといえますね」

 実は、同院で行っているのはぬいぐるみの治療や施術だけではない。ぬいぐるみの入院中、持ち主の心のケアも同時に行うという。

「ぬいぐるみの治療を通して人の心をケアすることも、私たちの仕事です。お客さまの中には、過去につらい思いをされた方や、繊細な性格の方も少なくありません。何より、常に一緒にいたぬいぐるみを送り出し、知らない人に預けるのはとても大きなストレスになるので、お客さま一人ひとりの気持ちに寄り添うケアは必須。ナースが送る『ぬくもりメール』は、入院している患者さまの様子を伝えるだけでなく、お客さまが抱える不安に耳を傾ける機会でもあります」

 利用者からは「最初から最後まで丁寧なご対応、素敵なメールや写真、完璧な治療に感謝している」などのコメントが多く寄せられているという。「ぬくもりメール」は同院のサービスの根幹を担っているのだ。