その借主さんは、日本の骨董が大好きで、家中に骨董品を飾り、日本に遊びに来たときに鑑賞できるスペースにするということでした。日本のお友だちも呼んで、ゲストハウスとしても使いたいと楽しみにされていました。

 Bさんも、家が貸せただけでなく、こんなワールドワイドなご縁ができて喜んでいるようでした。せっかくおじいさまが丹精込めて建てた家です。そのままの姿で残し、しかも家のよさを活かしたかたちで使ってもらえるなら、これほどよいことはありません。

古い建物に価値を見る文化が
京都や鎌倉の町並みを支えている

 日本には、長い歴史の中で育まれてきた木造の文化があります。古民家も多くあります。しかし、木造建築の価値は、時間とともに下がっていく。対照的に西洋の石造りの家は、年代を重ねるほどに価値が高まっていきます。西洋人にとって、歴史があるものはアンティークなのです。日本人は、その感覚を失ってしまったのです。

 ただ、古くて歴史のある家には価値がある、という感覚を持ち続けている地域があります。それは京都です。

 京都が古い街並みを守り続けていることで、風情と歴史のある場所を好む人たちが集まってきます。「古い建物には価値がある」というマインドの人たちが集まることで、それが文化になっているのです。ほかにも、鎌倉などの古い街には、歴史的建造物が好きな人たちが集まる文化があります。

 それなのに、多くの都市や街では、古い家を大切にする文化がなくなりつつあります。新しいものを好む人々の価値観が、それをよしとしなくなってしまったのです。

 古い家は維持費がかかる。それよりも、機能性が高くて、現代風で、駅に近くて、親族の干渉からも距離を置き、自分たち核家族だけで生きていきたい。そんな暮らしが、今の日本の主流になってしまったのです。

 所有者さんの家を残したいという意思に向き合うことが、こういった日本の文化を継承することにもつながっているとするなら、さらにうれしいことです。

 また空き家という不動産の販売可能性を考えても、世界中、日本中(広域)に目を向けて、世界でも唯一無二の日本建築として残した方が、価値も可能性も高まるのです。