理念づくりは「経営者の専権事項」

佐宗 ところで、星野さんが代表になられた時点ではビジョンや価値観は会社のなかになかったということでしたが、どういう手順でこれらをつくられたのでしょう? 社員の方々と議論を重ねたのでしょうか?

星野 私は、経営理念は経営者の専権事項だと思っています。船が向かう先は乗客ではなく船頭が決めなければならない。船が出たあとに、船頭が「やっぱりあっちに行こうかな」とか「みなさんはどこに行きたいですか?」などと言ってふらふらしていると、全体が混乱してしまいます。また、船内でのルールも乗客が決めるものではありません。これも船頭である私が決めないといけないと思いました。

行き先とルールに納得がいかないなら、乗船しなければいいという考え方です。そのため、ビジョンを設定した当初は「ビジョンや価値観はそもそも議論すべき対象ではない」と言っていました。

佐宗 そうなんですね。すべて星野さんが決められたと。

星野 はい。ただし、ミッションに関しては事情が違い、決まるまでの経緯も異なっています。

佐宗 そうなんですか!? ぼくの知人は「星野リゾートの『日本の観光をヤバくする』というミッションに惹かれて入社した」と言っていたのでとても気になります。次回はその話を詳しく教えてください。

(次回に続く)

星野リゾート代表に聞く。経営者の仕事は「理想」と「ブレーキ」を用意することだ