震度7にも至る猛烈な地震、その後に押し寄せた想像を絶する津波によって、あまりにも多くの人命と財産が失われた東日本大震災。あれから2年が過ぎました。被災地では少しずつ少しずつ復興が進んでいます。しかし、未だに何の解決もなされず、その復興の前進を大きく妨げているのが、福島原発の存在です。震災の被害がいかに甚大だったにせよ、原発事故さえなければ復興への歩みはもっと早く力強いものであったはずです。
大地震による原発事故はかねてから警鐘を鳴らされていたものでした。30年以上前からその危険性を指摘してきた広瀬隆氏が『原子炉時限爆弾』というショッキングなタイトルの書籍を刊行したのは「3.11」の半年前。そして、氏が警告しているのは、福島だけではないのです。

刊行は大震災の半年前
予見されていた全電源喪失

広瀬隆『原子炉時限爆弾 大地震におびえる日本列島』
2010年8月刊行。このタイミングで出版したのは、「核燃料再処理とプルサーマルの開始、さらに高速増殖炉もんじゅの運転再開と、人々の関心が薄い中で原子力政策が推し進められていたから」(担当編集者)。本稿筆者と同様に、3.11の強烈な揺れを感じた瞬間、すぐに原発が頭をよぎったそうです。

『原子炉時限爆弾』の初版発行は2010年8月26日、東日本大震災(2011年3月11日)による「福島第一原子力発電所事故」の6ヵ月と2週間前のことでした。

 著者の広瀬隆さんは1980年代初頭から原発の本質的な危険性を、そして大地震による「原発震災」の可能性を指摘してきました。

 本書は地球科学の基礎知識を詳細に解説しつつ、巨大地震が原発の電源を断ち切り、冷却水の温度が上がり、やがて水素爆発が起きて格納容器が崩壊し、圧力容器も損傷して炉心溶融(メルトダウン)が起き、膨大な放射性物質を大気中に放出することになる、としています。もちろん津波の影響も忘れていません。

 福島原発の大事故を、半年前にそのまま書いているような迫真の記述で読者を驚かせました。全電源喪失について、広瀬さんはこう書いています。

原発震災を防ぐすべての鍵を握っているのは、コントロールルーム(中央制御室)にいる発電所の職員である。彼らが地震に気づいても、立っていられないほどの揺れに襲われて、何もできない光景が想像されるが、もしテーブルにしがみつきながら揺れに対して何とか持ちこたえて、ただちに非常用のボタンを押すことができたとしても、電気系統が切れていればどうなるだろう。配線が寸断され、発電所内が完全停電となる恐怖を、ステーション・ブラックアウトと呼んでいる。(略)
緊急事態に対して、ボタンを押しても何も作動しないのだから、何も手を打てなくなる。時間がたてばたつほど原子炉の暴走は、そのまま最悪の事態へ突入してゆく。
(69ページ)