新日本酒紀行「十石」松山酒造外観 Photo by Yohko Yamamoto

京都育ちの原料に絞り込み、名杜氏が1人で醸す純米吟醸

 灘と全国一、二を争う日本酒の大生産地伏見で、造り手1人、営業1人の小さな酒蔵が2023年1月に船出した。造り手は月桂冠で製造責任者を務め、全国新酒鑑評会で金賞を8回受賞した名杜氏の高垣幸男さんだ。醸造の場は、月桂冠に酒を納め、21年に休蔵した松山酒造で、幕末まで薩摩藩邸があった土地に明治期に建てられた酒蔵だ。

 新しい銘柄は「十石」。「伏見十石舟と、小さな舟での出発を意味します」と高垣さん。元の蔵には50本以上の大型8トンタンクが残り、半分を廃棄して場所を確保することから始まった。HACCPに対応したコンパクトな醸造場に改装し、ガラス窓から酒造工程がのぞけるように。そして、米洗いから麹造り、醪管理に搾り、火入れまでを全て1人で担う。