「職場は人間関係で揉めやすい」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)
見えない「シリアルキラー」
「職場で心が疲れ果ててしまった」
「気づけばうつ病に悩まされていた」
多くの人が「いつの間にか心が重たくなっていた」と実感し、精神科や心療内科へと足を運びます。
どうしてこんな事態が生じるのでしょうか?
あなたもこんな経験はありませんか?
後輩が突然辞めると言い出したり、「元気そうに見えたのに」と思うこと。
「問題ないです!」と言っていた人が突如職場を訪れなくなったりすること。
職場の人間関係に起因する問題は表面に出にくく、気がつくと手遅れになっていることが少なくありません。
職場における精神的なストレスは、「見えない、察知しにくい“シリアルキラー”」と形容されることもあります。
この“シリアルキラー”の主な2つの特徴について説明しましょう。
ポイント1
「直接的なストレス源が去った後も、ストレスを感じる」
こんな経験はないでしょうか?
人間関係で不愉快な出来事があった際、何度も頭をよぎり、気持ちが沈むこと。
上司に叱責された場所に入るだけで、不安になること。
私たちは、ストレスの発端が目の前にないときでも、ストレスを感じやすいのです。
その結果、人間関係の問題は休日や自宅でも心を重くし、悪い気分が続くこともあります。
ポイント2
「心理的ストレスは蓄積し、強まる」
人間関係に起因するストレスは、日々増していきます。
仕事の課題は厳しいものの、時間をかけて取り組むことで解決に向かいますが、人間関係の悩みは関わる人がいる限り続きます。
「また明日、苦手なあの人と会わなければ……」
このように思い続けると、最初は人間関係の悩みだけだったものが、職場や仕事自体への嫌悪感に変わります。
結果、上司や同僚との関係悪化によるストレスが無意識に積み重なり、強くなります。
そして、気づいたときには、既に限界点を超えているのです。
ポイント3
「当事者も周囲も気づきにくい」
人はしばしば「自分に都合の良い真実しか見ない」傾向があります。
限界に達している管理職であっても、「この人がいれば安心」という過信により、周囲がヘルプサインを見落とすことがあります。
また、ハラスメント行為をしている上司も、自分が人間関係のトラブルを引き起こしているとは思っておらず、気づいていないこともあります。
このように、認知のギャップが「見えにくい」という特徴をもたらします。
人間関係の問題は、本質的にコミュニケーションの問題です。
どの職場でもコミュニケーションの重要性は理解されていますが、それでも人間関係の悩みは尽きないのです。
この現象が発生する根本的な原因も、「見えにくく、気づきにくい“シリアルキラー”」という性質にあります。
ストレスを感じている本人さえ、自分が限界に達していることを自覚しないことがあります。
こうして、職場の人間関係の問題は、本人だけでなく周囲やハラスメントを行う上司や同僚にも気づかれにくく、どの職場でも起こりやすいのです。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』の著者・精神科医いっちー氏が特別に書き下ろしたものです。)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。