そこには、小倉がデビュー前に憧れていた「ハロー!プロジェクト」とはまた違う世界がありました。「こっちを目指すのも、いいよね?」……そんなふうに可能性を見せたことで、自分のやろうとしていることに、自信が持ててきたのだと思います。

 無事デビューした『ゆいかおり』でしたが、芸能事務所が仕掛けるアイドル声優に対しての風当たりは強く……いや、まるで興味持ってもらえていなかったと言う方が正しいかもしれないくらい順風満帆ではありませんでした。

 レコード会社からは声優アーティストは声優として人気が出なければ売れない、声優として売るのは事務所の仕事と言われていましたので、事務所としてはなんとしても、小倉唯と石原夏織を声優として売らねばと営業しまくりました。

 そしてまずは小倉唯に白羽の矢が立ちました。そのときにお世話になったのが、ワーナーブラザーズジャパン(以下「ワーナー」と略)のプロデューサー・川瀬浩平さん(現在は独立して、カスケードワークス合同会社代表)でした。テレビアニメ『ロウきゅーぶ!』と『神様のメモ帳』(ともに2011年7月~OA)という、ふたつの作品に小倉唯は出演。『神様のメモ帳』にはランティス(現バンダイナムコミュージックライブ)が音楽制作で参加しており、「一緒に声優ユニットをやりましょう」という話になったことから、能登有沙、小倉唯、石原夏織、松永真穂という4人によるユニット「StylipS」(スタイリップス)が生まれます。

 そうした流れのなかで、僕たちと小倉の前にありがたくも高いハードルが訪れました。小倉のソロデビューです。そしてランティスとワーナーが製作委員会に名を連ねるテレビアニメ『カンピオーネ!~まつろわぬ神々と神殺しの魔王~』のEDで、2012年7月に小倉唯がアーティストデビューすることになりました。かくしてアニメ業界各社の応援をもって、小倉唯はハードルを越え、ソロデビューを飾ることができたのです。