もしもこれを、例えば東京大学を卒業した人が受けたとしよう。「自分は東大を出ているのにこんなレベルの低い仕事の練習をしなければならないのか」と、学歴と自分の仕事の能力のギャップに不甲斐なさを感じてつらくなるかもしれない。
発達障害女性は
ガールズトークが苦手
最後に触れておきたいこととして、女性の発達障害当事者に多いのが、いわゆる「ガールズトーク」が苦手であるという点だ。お昼に女子社員そろってランチに行くのが苦痛だという人は少なくない。
以前取材したASDの女性当事者は、同僚にランチに誘われた際「私はひとりで食べるから」と断ったところ、それ以降仲間はずれにされるようになり、社内で孤立してしまったそうだ。次第に彼女の心は悲鳴を上げ退職するが、3カ月以上続いたことがなく転職を繰り返していた。
私も向いていなかった事務職会社員をしていた頃は、ひとりでデスクでお弁当を食べていた。昼休みくらいひとりになりたかったからだ。幸い、他の同僚や先輩も昼休みは昼寝やゲームをしたかったらしく、その点においては助かった。
オチや中身のないことが多いガールズトークはASD女性にとって苦痛なのだ。ただし、ASD傾向のある女性はいつでもひとりでいたいわけではなく、一匹狼になりたいわけでもない。なぜ中身のない会話をしなければいけないのかという疑問を彼女たちは抱いてしまうが、しかしそれを避けているとだんだんと孤立していってしまう。
姫野 桂 著
ASD女性は孤独を求めているわけではない。孤独は発達障害と関係なく、心を蝕む原因となり得る。
コミュニケーションにおいて、学生時代までは嫌な人とは付き合わなければいいが、仕事となるとそうとはいかない。組織において求められる様々なことは発達障害者にとって「無理ゲー」(クリアするのが困難なゲーム)の連続なのだ。ましてや高学歴となると、今まで勉強ができれば良かった世界から真逆の世界に放り出された状態となり、精神的に苦痛を伴う。
そして、意地の悪い人たちからは「あの人はエリートなのに仕事ができない」と小言を言われるのだ。