有名大学を卒業して鳴り物入りで配属された新人が、現場ではまったく使い物にならないのはよくある光景。仕事はできず、社内のコミュニケーションも取れない。そのくせサシで話せば理路整然と受け答えするのだから、上司や先輩も戸惑うばかりだ。そんな高学歴発達障害者当人は、なぜ周囲から理解されがたい言動をとってしまうのか。その原理を紐解く。※本稿は、姫野 桂『ルポ 高学歴発達障害』(ちくま新書)の一部を抜粋・編集したものです。
学歴が高くても、発達障害者は
会社員の「当たり前」をこなせない
発達障害の傾向のある人で高学歴の人は、社会に出た途端今までのやり方は通用しなくなって「勉強はできるエリートなのに仕事ができない」という烙印を押されてしまう。
会社での仕事に必要なスキルは大学を含む学校で教わることがほとんどない。高学歴発達障害者が社会に出て初めてぶつかる壁は基本的な事務仕事(電話の応対、メモを取る、スケジューリング)やコミュニケーションだ。
発達障害の一部の人は、脳内にあるワーキングメモリ(作業に必要な情報を、一時的に保存し処理する能力)も小さい傾向にあるといい、聞いた話を一旦脳内でメモするように留めることなくするすると抜けていって忘れてしまう。
だから、電話を受けて「●●社の▲▲さんからの電話を営業部の■■さんへ取り次ぐ」といったことも、「あれっ? ●●社の誰からで営業部の誰に繋げば良かったんだったっけ?」と内容の一部を忘れ、パニックを起こしてしまう。
健常者はあまり意識することがないかもしれないが、電話はマルチタスクの代表格といっても過言ではない。まず、かかってきた電話を手で取る、会社名と自分の名を告げる、相手の会社名と名前、要件を聞き取る、それをメモする、内容次第では誰かに取り次ぐ。これらを一度に行なうのだ。マルチタスクが苦手な発達障害者にとっては拷問とも言える。
また、ADHD傾向の強い人はいつも頭の中で何かを考えている傾向があり、会議に出席した際、そのときは話し合われていないことを思いつきで発言してしまうので、仮にそのアイディアがどんなに素晴らしいものであっても「この人は何をトンチンカンなことを言っているんだ?」と白い目で見られてしまう。
社内のコミュニケーションには、その会社によってそれぞれ暗黙のルールがある場合が多い。ASD傾向のある人はその暗黙のルールを理解できなかったり、本音と建前がわからなかったり、言われた言葉をそのまま受け取ってしまうことがある。
例えば、「ここ、適当に片付けておいて」と言われた際、健常者はある程度綺麗に片付けるも、ASD傾向の強い人は言われた通り、本当に適当に片付けてしまう。