脳には物を大きく見ようとする運動が伴えば大きく見え、小さく見ようとする運動が伴えば小さく見える機能がある。この機能をうまく使うと、たとえ緊張していても視野狭窄にならずに、冷静に全体を見渡して勝負に勝つことができるのだ。本稿は、二重作拓也『可能性にアクセスするパフォーマンス医学』(星海社)の一部を抜粋・編集したものです。
「眼」の機能を発達させることで
生存競争に勝ち残ってきた人類
「視る」はパフォーマンスに大きな影響を及ぼします。それもそのはず、私たちは視機能を高度に発達させてきた種族の末裔であり、ある意味、最終進化形だからです。
地球に最初の生命である、原始海洋微生物が誕生したのが39億5000万年前。10億年前にナマコやクラゲのような多細胞生物が出現しました。でもまだこの時代の生物は「眼」をもっていませんでした。約5億4000万年前から5億年前頃、「カンブリア大爆発」と呼ばれる生物学史上最大のビッグバンが起きたと考えられています。生物の種類が多様化し、現生生物の祖先が誕生した時代、遂に「眼をもった生物」が出現したのです。(新発見によって学問は書き換えられる、という前提はありますが)現在のところ、三葉虫が眼をもった最初の生物だとされています。
視機能を有するとは
1:まだ十分な距離がある段階で天敵を見つけられる。
2:餌や食料を視覚でとらえ、捕獲・採集できる。
3:生物的に優れた個体(栄養状態のよい相手)と共に種族を残すことができる。
など、過酷な自然淘汰に対して圧倒的なアドバンテージがある、ということになります。
現存する生物の中で最も大きな眼球をもつのは、深海に生きるダイオウホウズキイカで、その眼球のサイズはサッカーボールほどです。その大きな受信機で、天敵であるマッコウクジラが泳いだ際に発光する微生物の光を遠くから感知し、マッコウクジラとの接触を避けるのです。逆に、眼をもっていたのに退化した種もいます。ブラインドケーブ・カラシンという魚は暗い洞窟の中に住んでいるのですが、光が無い環境では、視覚的に餌となる食料を捉えることができません。またそのような環境ではブラインドケーブ・カラシンを餌にして食べようとする天敵も存在しません。事実上、水中洞窟内の食物連鎖の頂点に君臨しているため、眼が必要ないのです。自然は案外合理的で、もともとあった眼も生きる環境によって退化させ、視覚によらない生存の能力を高める方向で進化してきました。
私たち人間は、「眼」を発達させてサバイヴしてきた優秀な先輩たちの後継者です。ここでは生存戦略の証である「眼」そして「視る」をテーマにパフォーマンス向上のヒントを探してみたいと思います。