パフォーマンス向上の秘訣は練習にあるが、求める結果を得るためにはそれに適した練習法を選択する必要がある。そのために大切なのは「どうなりたいか」から現在を見直す作業なのだ。スポーツドクターがパフォーマンス医学の観点から練習法を考察する。本稿は、二重作拓也『可能性にアクセスするパフォーマンス医学』(星海社)の一部を抜粋・編集したものです。
自分が求める方向性を主軸に
練習法を選択すべし
パフォーマンス向上の秘訣は練習にあります。もちろん本番でどんどん気づいて、どんどん学んで、どんどんできるようになることもあります。そういう意味では本番こそ最高の練習とも言えますが、より高いレベルを求めている人で「練習がなおざりな人」に会ったことがありません。
同じ練習時間、同じ練習量でも人によって大きく差がついてしまいます。それを「センス」という言葉に押し込めることがありますが、そこはパフォーマンス医学。あらためて練習について考察してみたいと思います。共有しておきたいのは「いろんな練習がある」という事実です。時にそれらは相互補完的だったりしますが、方向性を主軸に練習を見つめてみましょう。
得意をさらに磨く練習と不得意に向き合う練習
これは真逆です。得意で不得意をカバーできる場合もあれば、不得意を何とかしなければどうしようもない場合もあります。不得意がある程度形になれば、ますます得意が生きることもありますし、得意に依存してしまって全体的な実力が落ち込む場合もあります。特に不得意に向き合う練習は気分的にもあまり楽しいものではなく、できない自分に直面せざるを得ません。不得意ですから当然、簡単に克服できるものではありません。このあたりの取捨選択やジャッジは本当に難しいです。
時間的に余裕がある時の練習と差し迫った時期の練習
これもかなり違います。時間が十分にあれば、自分の技術をゼロから再構築したり、スタイルをリニューアルしたり、新しい技術をマスターしたり、などなど実験しながら進むことができます。しかし本番や試合まで時間がない場合、「とりあえず今ある材料でなんとか料理を成り立たせる」場合もあります。いわゆる帳尻合わせで及第点のパフォーマンスはできるものの、実力としては平行線あるいは徐々に下降線、ということも。相撲の世界で言われる「3年先の稽古」つまり長期で見た場合は大きな差がつくけれど、短期では全く効果が感じられない稽古があります。熟成されたワインのように「時間」が重要な構成要素になっているんですね。ですから「今、行っている練習はいつ生きるか?(生かすつもりか?)」という視点は有効だと思います。「ずっとそれをやっていく」のと「3年で引退するつもり」では正解は異なりますし、「1日の中で十分に練習できる時間がある人」と、「時間の確保自体が簡単じゃない人」によっても解は違ってくるはずです。