ゼネコン準大手の三井住友建設は2期連続の赤字に陥るなど経営危機にある。主因となった大型プロジェクトの大幅遅延の原因を究明するため、同社は2度にわたり、内部で調査報告書をまとめている。だが、二つの報告書は内容が大きく異なり、プロジェクトを推進した新井英雄前会長への責任追及を避けようとの意図が浮かび上がる。特集『三井住友建設 クーデターの深層』の#3では、ダイヤモンド編集部の取材で判明した二つの報告書の中身を基に、“ドン”として君臨した新井氏への「過剰忖度(そんたく)」の実態に加え、君島章兒現会長の主導による事実や経営責任の“隠蔽(いんぺい)”ともいえる動きについても明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
「麻布台ヒルズ」で2期連続の赤字
1度目の調査報告書では責任に触れず
国内大型建築工事の工事損失発生にかかる調査報告書の概要について――。ゼネコン準大手の三井住友建設は2023年11月8日、そう題した資料を開示した。
国内大型建築工事とは、森ビルが施主である大型プロジェクト「麻布台ヒルズ」の超高層マンションの工事のことだ。19年にプロジェクトを受注した三井住友建設は工事を進めてきたが、相次ぐトラブルによる大幅遅延で、22年3月期と23年3月期で計500億円超もの損失を計上。2期連続の赤字に陥った。
巨額損失が発生した原因を究明するため、同社は社内に調査委員会を設け、23年9月に調査報告書をまとめた。当初は、報告書は公表されていなかったが、株主などの要望で2カ月後に概要版が公開されたのだ。
報告書では、損失発生の主因や、製品の不具合問題の原因などの項目について、外部有識者の助言などを基に経営面や技術面から考察が加えられている。主因に関しては、難度の高い地下工事で、入札後に大幅に工法を変更する必要が生じたことなどが盛り込まれた。
実は、同社が麻布台ヒルズの工事を巡る調査報告書をまとめたのはこれが2度目。23年版とは別の外部には公表されていない報告書が存在するのだ。工事遅延で業績を大幅に下方修正した21年9月の中間期決算を受け、社内に設けられた調査委員会が22年2月にまとめた。こちらは概要版はおろか一切公表されておらず、取締役にしか配布されていない。
1回目の報告書の内容を見ると、驚くべきことに2回目の報告書とは全く異なっている。原因究明のポイントとなる、麻布台ヒルズの受注をどのような体制で検討したかがあいまいになっているほか、経営責任についても全く触れられていないのだ。
なぜか。そこには、麻布台ヒルズのプロジェクトの受注を推し進めた新井英雄前会長への責任追及を避ける意図があったのだ。現会長の君島章兒氏の主導によってまとめられた1回目の報告書は、まさに行き過ぎともいえるおもんばかりの産物といえる。
結局、1回目の報告書では、経営責任の追及や原因究明に踏み込まれず、新井氏らによるプロジェクトへの関与が続いた。1回目の報告書の策定後も、麻布台ヒルズのプロジェクト体制は見直されず、ずるずると工事を続けた。結果、大幅遅延が発生し、2度目の巨額損失を招くことになったのだ。
要するに、2度目の巨額赤字は、“ボス”として君臨した新井氏に忖度し、お手盛りの報告書をまとめた君島氏ら取締役の「過失」だったともいえる。
次ページでは、1回目の報告書で、いかに事実や経営責任を“隠蔽”していたかについて、ダイヤモンド編集部の取材で判明した二つの報告書の中身を基に明かしていく。また、報告書の作成過程などで浮上した君島氏の行為に関する疑惑についても触れていく。