ゼネコン準大手の三井住友建設で勃発した“クーデター”で、同社とメインバンクの三井住友銀行との関係悪化は避けられない情勢だ。これを引き金とした、三井住友建設の「解体シナリオ」も急浮上している。連載『三井住友建設 クーデターの深層』の#2では、社内でもささやかれている土木・建築事業の売却先の有力候補となる大手企業の実名を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
三井住友銀行との関係悪化は不可避
再度の業績悪化で資金繰り不安も
「三井住友銀行に恩をあだで返したようなもの。三井住友建設は、自分の立場を全くわきまえていない」
三井住友建設で明らかになった近藤重敏代表取締役社長解任の“クーデター”騒動に対し、ある市場関係者は、そうぼやいてあきれ果てた。
本連載『【スクープ】三井住友建設で社長解任の“クーデター”勃発!反社長派の取締役が三井住友銀に出した「連判状」の全容』で明らかにしたように、反社長派の取締役が2024年1月、三井住友建設のメインバンクである三井住友銀行に対し、同行出身の近藤社長の解任を事前通告する“連判状”を提出した。このクーデターは、三井住友建設が三井住友銀行に「けんかを売った」も同然である。
しかし、冒頭の市場関係者が指摘するように、三井住友建設は三井住友銀行にけんかを売れるような立場ではない。
バブル崩壊で経営危機に陥り、03年に三井建設と住友建設が合併して誕生した三井住友建設にとって、三井住友銀行は企業存亡のピンチを二度も救ってくれた“恩人”なのだ。
最初のピンチは05年3月期。合併後も経営再建が進まない三井住友建設は、債務超過に陥った。経営を立て直すため、不採算の不動産部門を会社分割したほか、事業分野を絞り込む構造改革を断行。さらに三井住友銀行が他行とともに1788億円もの債務免除を受け入れたことで、経営危機を乗り切った。
二度目のピンチは、森ビルが手掛ける大型プロジェクト「麻布台ヒルズ」の超高層マンション工事で度重なるトラブルを抱え、2期連続で最終赤字に沈んだ23年3月期だ。三井住友建設は、「財務制限条項」に抵触したのだった。
財務制限条項とは、複数の金融機関が協調して融資する「シンジケート・ローン」(シ・ローン)で、資金調達する企業側に課す条件のこと。シ・ローン契約を締結した決算期の純資産合計額が、前決算期の75%以上を維持する、2期連続の最終赤字を避ける、といった条件が一般的に課せられる。
財務制限条項に抵触すれば、銀行が融資を回収したり、返済の猶予に応じなくなったりする場合が多い。企業側は一気に資金繰りが苦しくなり、企業存亡の機に立たされる。
三井住友建設は23年3月期、2期連続の最終赤字により純資産が財務制限条項で指定した金額を下回った。通常であれば、即座に融資が回収されて資金繰りが悪化し、“突然死”を招きかねない。
それでも三井住友銀行は“特例”を設け、三井住友建設に対する融資の回収は行わなかった。同じ財閥グループに属する三井住友建設を徹底的にサポートする姿勢を見せたのだ。
一方、三井住友建設は当時の新井英雄取締役会長が“引責”する形で退任。受注の抑制などを盛り込んだ修正版の中期経営計画を策定し、経営再建に取り組む姿勢を示した。
さらに三井住友銀行は23年10月、財務制限条項を見直し、維持すべき純資産合計額について、25年3月期末までは662億2600万円以上とした。24年3月期第3四半期時点で、三井住友建設の純資産額は711億3700万円。条件をさらに緩めたのだ。
そんな中で反社長派によるクーデターは勃発した。仮に、クーデターが成功して近藤社長が解任されれば、三井住友銀行との関係悪化は不可避となる。そもそも同行は三井住友建設のガバナンスの実効性を危惧してきたとされる。
三井住友建設の経営は綱渡りの状態が続く。再び業績が悪化して財務制限条項に抵触すれば、今度こそ三井住友銀行から「解体」を宣告されるかもしれない。
すでに、三井住友建設の社内ですら解体シナリオを危惧する声が上がっている。
次ページでは、クーデターに揺れる三井住友建設で浮上する解体シナリオで、有力な売却先として名前が挙がる企業の実名を明らかにする。解体を宣告するのは、メインバンクだけではない。近年、ゼネコン業界を最も恐れさせている強敵の介入も避けられない。