準大手ゼネコンの三井住友建設は11月12日、2025年3月期に再び最終赤字に転落する見通しを公表した。従来予想の黒字から一転し、2期ぶりの赤字となる。主な要因は、森ビルが都心で開発する大型プロジェクト「麻布台ヒルズ」の超高層マンション工事を巡る特別損失だ。連載『三井住友建設 クーデターの深層』の#6では、三井住友建設を奈落の底に突き落とした麻布台ヒルズの超高層マンション工事を巡る迷走の一部始終を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
三井住友建設が再び赤字転落
大型案件の特損累計は757億円!
「麻布台ヒルズ」の高層マンション工事だけで特別損失の累計は757億円――。準大手ゼネコンの三井住友建設は11月12日、2025年3月期の最終損益が80億円の赤字(従来予想は45億円の黒字)となる見通しを発表した。最終赤字は2期ぶり。
主な原因は、三井住友建設が施工を請け負った森ビルの大型プロジェクト「麻布台ヒルズ」の超高層マンション工事だ。度重なるトラブルで工期が遅れ、今年6月末に竣工予定だったが、その工期をさらに25年8月25日まで延長することを決めた。2度目の工期延長に伴い、131億円の特別損失を計上した。
業績不振の経営責任を明確にするため、柴田敏雄代表取締役社長の月額報酬を12月から4カ月間30%減額するなど役員報酬の減額も併せて発表した。
麻布台ヒルズの超高層マンション工事は、三井住友建設を奈落の底に突き落とした。度重なるトラブルが発生し、25年3月期までに757億円もの特別損失を計上。22年3月期からは2期連続で最終赤字に沈み、経営危機に陥った。
受注当時のトップが引責辞任したものの、経営は混乱に陥った。24年には、三井住友銀行出身で当時代表取締役社長だった近藤重敏氏を事実上解任する“クーデター”が勃発。社長派と反社長派の激しいバトルの末、2月末の取締役会で近藤氏と当時の代表取締役会長の君島章兒氏が、混乱の責任をとって辞任する事態となった。
開示資料によると、同社は今回の特別損失の計上で麻布台ヒルズの完成までのコストは確定したとしている。実際、すでに地上躯体(くたい)工事の“仕上げ”である上棟式を終えており、内装や外装の仕上げ工事に移ったため、予算のめどがおおよそ立ったもようだ。
三井住友建設を“赤字地獄”に陥れた麻布台ヒルズの工事について、三井住友建設は23年5月、外部の有識者も交えた調査委員会を立ち上げ、同年9月に調査報告書を取りまとめている。当初は非開示の予定だったが、一部の株主からの強い要望で同年11月、調査報告書の概要が公表された。
公表された調査報告書の概要では、麻布台ヒルズの工事で発生した巨額損失の主な要因として、難度の高い大深度の地下工事で工法変更が発生したこと(以下、工法変更問題)、工事で使用する部材に不具合が見つかったこと(以下、製品不具合問題)を挙げている。
確かに調査報告書の概要で示した「工法変更問題」と「製品不具合問題」は、巨額損失に至る大きな要因ではある。だが、三井住友建設の関係者は「実は根本的な要因は、もっと別のところにあった」と指摘する。
次ページでは、三井住友建設が麻布台ヒルズの工事で赤字地獄にハマった真相について、三井住友建設の関係者の証言や報告書の概要などを基に解き明かす。「日本一」という称号を得るために、トップが“暴走”し、現場が泣きを見ることになった巨大プロジェクトを巡る社内の混乱の一部始終を明らかする。