働き方改革に伴う「2024年問題」が懸念される物流業界。宅配大手のヤマト運輸、佐川急便はそれぞれ運賃の値上げに踏み切る。では、両社の業績はどのような状況にあるのか。それぞれの持ち株会社の決算書をひもとくと、両社には「大きな差」が生まれていることが分かる。(中京大学国際学部・同大学院経営学研究科教授 矢部謙介)
「2024年問題」を控える物流業界
ここ10年間でヤマトと佐川に「大差」のワケとは?
働き方改革に伴う残業時間の規制により人手不足が懸念される、いわゆる「2024年問題」の到来を控えている物流業界。ともに宅配便大手の、ヤマト運輸を傘下に抱えるヤマトホールディングス(以下、ヤマトHD)と、佐川急便を持つSGホールディングス(以下、SGHD)が、相次いで値上げや構造改革に動いている。
ヤマトHDは、2024年4月1日から宅急便の届け出運賃を約2%値上げすることを発表。SGHDも、24年4月1日から宅配便の届け出運賃を平均で7%程度値上げすると発表している。
また、ヤマトHDでは23年6月に発表した日本郵政グループとの協業を踏まえて、これまで自社で行っていたクロネコDM便などの配送を日本郵便に移管。それに伴って、配達委託契約を結んでいた個人事業主(クロネコメイト)との契約を終了したと、24年2月1日に発表した。その人数は約2万5000人に上るという。
SGHDは、それに先んじて21年9月に日本郵便との提携を発表しており、小型宅配荷物の輸送や国際荷物の輸送、クール宅配便事業などでの協業を行っている。また、22年3月からは幹線輸送を2社共同で行うなど、協業の取り組みを深めてもいる。
物流業界では、働き方改革関連法により24年4月からドライバーの時間外労働時間の上限が制限されることで、輸送能力の不足や輸送コストの上昇などが見込まれる。
ヤマトHDやSGHDの値上げや構造改革は、こうした問題に対応して採算性を向上させるための打ち手であると見ることができる。一方で、実はここ約10年の間にヤマトHDとSGHDの決算書には、大きな差がついてきている。
今回は、なぜ両社の決算に大差がついたのかを見ていくことにしよう。