1989年に発表した論文「歴史の終わり?」で、西側諸国の自由民主主義が、人間のイデオロギー的進化の終着点なのではないかとの見方を示した、政治学者のフランシス・フクヤマ氏。彼は、冷戦終結後も争いが絶えない今の状況をどのように見ているのか。2月13日発売の最新刊『人類の終着点――戦争、AI、ヒューマニティの未来』(朝日新書)から一部を抜粋・再編して公開します。
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――フクヤマさんは1989年、ベルリンの壁崩壊の数カ月前に、「歴史の終わり?」という論文を発表して、脚光を浴びました。この論文のタイトルには「?」(クエスチョンマーク)がついていました。
その後1992年には『歴史の終わり』という書籍も発表して、米国および世界の思想史で大きな節目となり、大きな注目を集めました。その理由は、多くの人がその時代の本質的な要素を内包していると感じたからだ、と私は思います。
もちろん、ソ連の崩壊もありました。論文の言葉を引用します。「冷戦の終結や戦後の歴史の特定の時期の終わりを目の当たりにしているだけではなく、歴史の終わりを目撃しているのだ。すなわち人類のイデオロギー的な進化と人間の統治の最終形態としての西洋の自由民主主義の普遍化なのだ」と。
あなたの当時の意図はどうであれ、この本は「西洋の勝利を正当化するもの」だと受け止められました。世界で大きな出来事が起こるたびに、この論の妥当性についてよく聞かれるとあなたは認めています。
2022年のロシアによるウクライナへの侵攻を目にして、「これは冷戦後の最後の一幕だ」とか「歴史の終わり論の終わり」だと、言う人もいるでしょう。あなたはこの出来事に関して、どのように考えていますか。