農業起業家たちが「村おこし」に奮起

 海南省はこれまで複数回訪問したことがあるが、今回は数日間をかけて観光高速道路を利用して島を一周し、海口、万寧、三亜、陵水、儋州、澄邁などで農業起業家の企業とビジネス現状を調査してみた。

中国の起業家が「ここまで隠さずに…」と感動、日本人“道の駅”専門家の教えに聞き入ったワケDao19ビジョン会議の会場(著者提供)

 陵水黎(リー)族自治県には、清水湾とネーミングされる港湾がある。海水の透明度が高く、いまやヨットクラブなどもでき、港湾周辺に高級ホテルの建設が相次いでいる。ヨットクラブの責任者・陳周民氏は、ヨットクラブをコア事業にしてホテル、レストランなどを舞台にしてハイエンド顧客を囲むビジネスプランを紹介してくれた。

「農業起業家の取り組む商品や食材などの販売にもお役に立てる」と、陳さんはさりげなくポイントを強調した。港湾に浮かぶ多くのヨットと駐車場にある多くのキャンピングカーを目の当たりにした私は、ハイエンド顧客をターゲットにする海南観光ビジネスのある一面を見た思いがした。

 一方、三亜の会社「南鹿実業」の果物加工工場の入口には、「2024年、生き残れるようにしよう」と大書された横幕が掛かっている。清水湾とは反対に、今年の経済の行方に対してかなり緊張感を持っているようだ。

 同社はジャワフトモモとも呼ばれる熱帯フルーツのレンブを栽培・生産・加工する。同工場で食べたレンブは、私が今まで食べた中で一番おいしかったと感激すると、「うちは『南鹿一号』という品種です。糖度11に達していないレンブは絶対出荷しない主義です」と、三亜レンブ協会会長でもある邢軍総経理(社長)は自慢した。

 邢総経理の話によれば、現在、三亜のレンブ栽培面積が330ヘクタールに達し、年間5000トンのレンブを産出でき、売上額が52億円だという。昨年から、同社産レンブはカナダにも輸出し始めたらしい。

 澄邁県では、「青柚(あおゆ)カップル」と呼ばれる、貴州省出身の安昭宇さんと四川省出身の黄暁玲さんに出会った。二人は、海南大学で熱帯果樹栽培を専攻した大学時代に恋愛し、大学卒業後、海南に残り、夫婦で経営不振に陥った小さな農場を買収して創業の道を歩み始めた。

 起業当初の苦難を乗り越え、2010年、ついに栽培した青柚(青いゆず)が成熟の時を迎えた。しかし、手摘みした1000個以上の青柚はまったく売れなかった。黄色い柚子しか知らなかった客は、青柚を未熟のものと受け止め、関心を示さなかった。しかし、ある日、二人の作る青柚が、タイの青柚と同じものだと知られ、市場に持っていった青柚はあっという間に売り切れた。そこで二人は、卸売りの市場よりもハイエンド顧客に直売した方がよいと気づき、自社の青柚のブランディング化に力を入れ、商品の販路も次第に拡大していった。

 栽培面積も最初の3ヘクタールちょっとの果樹園から、14年に10ヘクタールへと拡大。会社も夫婦2人から大人数のチームになった。いまや果樹園面積が100ヘクタールへと広がり、青柚をキーワードにした多角経営も始まり、地元の成功モデルとなった。

 澄邁県には、「青柚カップル」のような農業起業家が多い。「鳳梨部落」を商標登録してパイナップルをベースにした商品開発と販売に力を入れる王雅麗さん夫婦、儋州市でミカン科フルーツ・ワンピ(黄皮)の商品開発と販売を手掛ける符明堂さん、地元のコーヒー品種を懸命に紹介する海口市の羅振華さんなどとも交流ができ、大きな収穫を得た。

 私はいままで、海南省の火山村ライチのブランディング化に成功した陳統奎さんを10年以上も追ってきた。陳さんは村おこしの最前線を走る輝くスターのような人物だ。

 今回の「Dao19ビジョン会議」と海南島周遊を通して、私は、陳さんと同じような輝きを放つ農業起業家たちがいると実感した。しかも、海に隔てられた海南島の会議に、貴州省や四川省など海とは縁もゆかりもない山間地帯の内陸部からも、農業起業家の代表人物らが駆けつけてきていた。

 村おこしの最前線では、星から星座へ、そして銀河へと変わっていく農業起業家たちの急速な成長と拡大を体感でき、私は取材希望地域リストに、貴州省と四川省という地名を入れた。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)