写真:食事,男性,高齢者写真はイメージです Photo:PIXTA

日本の総人口に占める65歳以上の割合が29%に達し、超高齢社会に突入する中、高齢者の運動機能や認知機能が衰える「フレイル」という言葉を耳にする機会が増えた。なかでも、口腔機能の衰えを指す「オーラルフレイル」は、さまざまな機能の低下と深く関わっているという。オーラルフレイルの具体的な症状、リスク、対策などについて歯科医師に聞いた。(清談社 真島加代)

要介護リスクを上げる
オーラルフレイルとは

 加齢とともに、運動機能や認知機能が低下した状態を示す「フレイル」。英語の「Fraility(虚弱)」を語源とし、「身体的フレイル」は体重減少、筋力低下、疲労感を招き、「精神・心理的フレイル」はうつ状態に陥る原因になるといわれる。それらに加えて、口腔機能が低下する「オーラルフレイル」も、重要な老化のサインのひとつとして注目されている。

「オーラルフレイルの高齢者は、舌がうまく回らない滑舌の衰えや、食事中の食べこぼし、食べ物が噛めない、飲み込めないといった嚥下力の低下、突然むせるなどの症状が現れます」

 そう話すのは、宝田歯科医院で院長を務める宝田恭子氏。同院には高齢の患者も通っているため、オーラルフレイルに悩む人も多く訪れるという。

「当院で総義歯を作り、しっかり噛めることも確認して帰宅した患者さんの親族の方から、後日『入れ歯を入れたのに、15分近く食べ物を噛み続けていて、なかなか飲み込まない』という相談を受けました。そのほか、虫歯が1本もない50代の患者さんは、喉に違和感を覚えて耳鼻咽喉科を受診したところ、数日前に食べた薄切りのリンゴが咽頭の中間で止まっていた、という話も耳にしました。これらはまさに、飲み込む力が衰えたオーラルフレイルの状態といえます」

 入れ歯を入れていたり、虫歯がなく歯がすべて残っていたりしても、加齢によって口腔機能が低下すれば飲み込む力が弱まってしまうのだ。

 宝田氏は、患者から受けた相談をきっかけに「歯でモノが噛めれば飲み込める、という考えを改めた」と話す。

「老後も自分の歯で食事ができるのは、とても素晴らしいことです。しかし、健康な歯が残っていても、オーラルフレイルによって嚥下力が落ちると、生きるために必要な栄養が得られず、体力が落ちて身体的フレイルを招きます。また、入れ歯を使用している場合には、『入れ歯安定剤』を使って顎の変化によるゆるみをなくし、しっかり噛める状態にしましょう。オーラルフレイルは誤嚥性肺炎のリスクを高めるといわれていますが、それ以外にも筋肉量が低下する『サルコペニア』などにより、要介護リスクを高める可能性もあるのです」