生活が豊かになり、心の余裕が持てなくなった?

 統計庁の資料によれば、20年前の2004年の出生数は約47万6000人で合計特殊出生率は1.17であり、この頃から既に少子化を危惧する声はあった。それでも、10年は毎年の出生数も45万人前後で推移していた。しかし、2016~19年の3年間で出生数は約40万人から30万人へと10万人の減少となった上、2018年についに合計特殊出生率は0.97と1を下回った。そして、2020年代に入り、新型コロナによる社会的活動の大幅な制限の影響がさらに追い打ちをかけたと言える。

 韓国が世界でも特に深刻な少子化に直面している背景に「若者の就職難」や「長引く経済の低迷」を指摘する声が多いが、それだけが理由とは言い切れない。

 確かに生活水準は、20年前と比較して格段に向上した。しかし、それと反比例するように、先の見通せない社会情勢に対する不安、あらゆることにスペックの高さが求められるなど、何かとフラストレーションがたまりやすく、心に余裕が持てない世の中になったとも感じる。

 親は周囲から後れを取らないように、「子どものため」と塾や習い事などに多額のお金を投じる。にわかには信じられないかもしれないが、教育熱が高い地域では、親の乗る車や、子どもの着る服まで「送迎のために高級外車を」「子どもにブランドの服を」と高価なものを買い求める人がいる。こうした物質至上主義の極みのような話まであるのだ。

 日本の中学受験を「課金ゲーム」と表現するのをよく聞くが、韓国での子育てもまさに「終わりなき課金ゲーム」と言えるだろう。

 こんな状況だから、親も子も疲れ切ってしまう。子どもの立場からも「幸せそうに見えない親」を見ていたら、自身の将来の結婚や出産といった理想のライフプランを思い描くことは難しいだろう。結果、結婚しない、子どもは欲しくないと考える若者が増える。未婚率はどんどん上昇し、自国を“ヘル朝鮮”と呼び国籍放棄する若者たち……