小洒落たお店に行ったとき、よく出てくるのが「AとBのC」タイプのメニューだ。しかし、「メロンと桃のコンポート」があったとして、果たしてそれは「メロン」と「桃のコンポート」なのか、それとも「メロンと桃」のコンポートなのか。言語学者の筆者が、言葉の持つ曖昧さを掘り下げて解説する。※本稿は、川添 愛『世にもあいまいなことばの秘密』(ちくまプリマー新書)の一部を抜粋・編集したものです。
「メロンと桃のコンポート」は
一品なのか、二品なのか?
「太郎と花子」「春と夏と秋と冬」のように、私たちの言葉には似たようなものを並列させる表現があります。こういった並列表現は、前の章で見た「構造的な曖昧さ」を含め、いくつかの種類の曖昧さを伴います。
よくあるパターンの一つに、「AとBのC」という名詞句の形をしたものがあります。何年か前、お店で食事をしていたときに、店員さんが他のお客さんに「本日は、メニューに書いてあるデザートの他にも、メロンと桃のコンポートがあります」と言っているのを聞いたことがありました。私は「メロンと桃がコンポートになっている一皿のことだろうか」と思いましたが、実際は「生のメロン」と「桃のコンポート」という、二種類の別個のデザートのことでした。
「メロンと桃のコンポート」の曖昧さは、「と」が何と何をつないでいるかによって生じています。たとえば次の構造1のように、「と」が「メロン」と「桃」をつないでいて、さらに「メロンと桃(の)」と「コンポート」が組み合わされていると考えると、私が頭に思い浮かべたような「メロンと桃の両方がコンポートになっている一皿」という解釈が出てきます。
構造1:[[メロン と 桃]の コンポート]
解釈:メロンと桃の両方がコンポートになっている一皿
これに対し、「と」が「メロン」と「桃のコンポート」をつないでいると考えると、「(生の)メロン」と「桃のコンポート」という二皿のデザートという解釈になります。
構造2:[メロン と [桃のコンポート]]
解釈:(生の)メロンと、桃のコンポート
このように、「AとBのC」という形をした表現には、[[AとB]のC]なのか、[Aと[BのC]]なのかという、構造の違いによる曖昧さがつきものです。私たちはたいていの場合、常識などを駆使して、どちらの構造が妥当かをほぼ無意識に推測しています。