たとえば、テニスのダブルスの試合で「山田さんと田中さん」のペアが「佐藤さんと鈴木さん」のペアと対戦したことを言いたいとき、「山田さんと田中さんと佐藤さんと鈴木さんがペアを組んで対戦した」と言うよりも、「山田さんと田中さん、そして佐藤さんと鈴木さんがペアを組んで対戦した」のように、「と」や「、」「そして」といった表現も使った方が分かりやすくなります。

 ちなみに法律関連の文書では、「及び(および)」は単独の名詞(句)どうしをつなげるのに使われ、「並びに(ならびに)」は、「及び」によって作られた「かたまり」をつなげるのに使われる、という決まりがあるそうです。先ほどのテニスのペアの例で言うと、「山田さん及び田中さん、並びに佐藤さん及び鈴木さんがペアを組んで対戦した」という表現になるでしょう。

書影『世にもあいまいなことばの秘密』(ちくまプリマー新書)『世にもあいまいなことばの秘密』(ちくまプリマー新書)
川添 愛 著

 また、並列構造には、「AとB」「AおよびB」のように英語のand にあたるものだけでなく、「AかB」「AまたはB」「AあるいはB」「AもしくはB」のように、英語のor にあたるものもあります。こういった表現についても、「と」の場合と同様の曖昧さが出てきます。法的な文書では、「若しくは(もしくは)」が単独の名詞や名詞句をつなげ、「又は(または)」が「若しくは(もしくは)」によってつなげられた「かたまり」をつなぐそうです。たとえば「無期の懲役若しくは禁錮又は十年以上の懲役若しくは禁錮」という句では、二つの「若しくは」が「懲役」と「禁錮」をつなぎ、「又は」は「無期の懲役若しくは禁錮」と「十年以上の懲役若しくは禁錮」をつなげていることになります。

 法律関連の文書では、曖昧さを極力減らさなければなりません。こういった「及び」「並びに」「若しくは」「又は」の使い分けも、そのための工夫の一環でしょう。日常ではこういった使い分けに従う必要はありませんが、複数の語句を並列的につなぐと多くの解釈が出てくるということは、ふだんから心に留めておいた方がよいでしょう。