YouTuberや映画に
影響を受ける自殺志願者

A インターネットには、警察に職務質問されたらこう答えろとか、監視員がここにいるぞ、と書かれているから始末が悪い。

 うちのチームだけで年間50名ほど保護し、警察も多分50名ほど保護していると思う。そして、遺体で発見される人が40名ほど……。我々の目に留まることなく帰っている人もいるだろうから、ひょっとすると自殺志願者は毎日来ているのかもしれない。自殺志願者を保護して家に帰すだけではなく、共同で生活できる場をつくって、解決してから帰すような仕組みが必要だと思っている。

 翌日は、別のチームの監視員のCさんが青木ヶ原の全体を案内してくれた。注意する点など、丁寧な説明を受けながら青木ヶ原の道を通っていると、道の脇に県外(中国地方)ナンバーの車が停まっていた。

 そして警察官。レッカー車と家族らしき人物が立ち会って、何か話している様子が見えた。

「きっと、車の持ち主はもう樹海のなかで亡くなっていて、家族が車を引き取りに来たのでしょう」と言ったCさんの口調から、決して珍しくないことだと感じられた。

 そして、「仏教系、キリスト教系の団体が勧誘に来たり、横断幕を張って勧誘している」という話が私の耳に届いた。

 今回、青木ヶ原樹海を調査し、インタビューを行って一番驚いたのは、観光地の近くにある自殺多発地域ということであった。レジャー客や観光客が多いなか、自殺志願者は何を思って青木ヶ原樹海に集まってくるのだろうか。

 確かに、青木ヶ原樹海は都市部からの利便性がよいが、パトロール隊が口をそろえて言うように、「ほかにも自殺できる場所はいくらでもあるのに、なぜ全国から集まる」のだろうか。

 その理由の一つとして、『波の塔』や『完全自殺マニュアル』の影響があると思うが、やはり、YouTuberや映画などにおける影響が過熱させているように思える。

 霊峰富士の麓で、自殺志願者が命を落とすことがないように願い、「最後の砦」として決死の覚悟で「声かけ」を行っているパトロール隊がいることを知ってほしい。

 私自身、彼らから話を聞くまで、これほど大変な活動だとは思っていなかった。彼らの言葉から、その「大変さ」を想像していただきたい。